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【特集】兼業・副業の迷いをほどく「運用設計」― 住民に伝わる「説明の型」と、学びを還す「回路」 ―

 
 
財ラボ代表理事・定野司氏(左)と小関一史さん(右)
財ラボ代表理事・定野司氏(左)と小関一史さん(右)
 
 
はじめに
「公務員の兼業・副業はどこまでなら大丈夫なのか」
国はガイドラインで方向性を示した一方、現場が判断や説明に必要とする「次の部分」―境界の考え方、判断根拠、確認手順、住民への説明の枠組み―までを一律に示すことは難しく、今後も共通解は示されにくい領域と考えられます。
自治体が明示すべきとの議論はあるものの、これまでの慣例や組織風土、住民からの見え方など、多くの要素が絡み合い、運用として整えることは容易ではありません。
 
今回は、元自治体職員で現在は城西大学准教授として公務員のキャリア形成を研究する小関一史(こせき・かずし)さんにお話を伺い、現場で迷いが生まれる背景をたどります。
そのうえで、兼業・副業の可否が制度や条文だけで一義的に決まるのではなく、説明責任・公平性・住民の納得感といった運用要素に左右される点を整理し、外で得た学びや経験を地域や組織へ循環させる「開かれた公務員像」をどう描けるかを考えます。
 
(聞き手:財ラボ代表理事・定野司)
 
小関一史
城西大学経済学部准教授。元・埼玉県東松山市職員。 1993年に東松山市役所へ入庁し、保険年金課長、都市計画課長、教育総務課(埼玉県都市教育長協議会事務局)などを歴任。 きらめき市民大学事務局長として、市民の学びや地域活動の場づくりにも携わった。
2024年3月に退職後、大学教員として公務員のキャリア形成や自治体組織の人材マネジメントを研究している。
職員べんきょう会Team「比企(ひき)」や公務員キャリアデザインスタジオ(CDS)などの自主研究活動を主宰し、「公務員おしゃべりカフェ」などの対話の場も運営。
主な著書に『クイズde地方自治 楽しむ×身につく!自治体職員の基礎知識』(「クイズde地方自治」制作班編/公職研)、『自治体職員の「自治体政策研究」史~松下圭一と多摩の研究会』(公人の友社)など。
 
 
目次
 

1章 納得感を育てる「説明の型」

この章では、総務省ガイドラインが示す「方向性」と、各自治体に委ねられる「運用」の間で、なぜ線引きの判断が揺れやすいのかを整理します。
そのうえで、迷いを減らすために必要となる「判断基準」と「確認手順」を組織内で揃え「説明の型」をつくり、住民にも伝わる形に整える視点を確認します。
 

 
定野 公務員に認められる兼業・副業の範囲は総務省のガイドラインで方向性が示されましたが、現場では自治体ごとに判断が分かれるという話をよく聞きます。
小関 そうですね。ガイドラインは方向を示すものですが、最終的にどう運用するかは自治体に委ねられています。そのため、同じ兼業・副業でも、許可が出るケースとそうでないケースがあるのが実情です。
定野 許可・不許可の線引きが揺れると、兼業・副業の何が問題視されているのかが分かりにくくなり、申請する職員は不安になりますよね。
小関 はい。問題がどこにあるのか分からないと、職員は動きにくくなります。兼業・副業は地域課題への対応と境目が重なりやすい場面もあります。勤務時間内であれば職務、勤務時間外で報酬を受け取るなら兼業など。しかし、そうした線引きだけでは単純には整理しきれないケースも出てきます。
定野 例えば地域のイベントに関わるとか、外部から謝礼が出るとか、そういう場面ですね。
小関 特に謝礼や営利従事許可申請については、制度の想定と運用実態に差が出やすい分野です。だからこそ、「何を見て判断するのか」という判断基準と、「どの順番で確認するのか」という確認手順をセットで整理し、共有しておくことが重要だと思います。そうすれば現場の迷いは大きく減少します。
定野 内部で判断が揃う状態をつくるということですね。
小関 はい。判断基準と確認手順を揃えることが、次の「説明の型」づくりの前提になります。
定野 内部で迷いが減ってくると、次は外からどう見えるか が論点になりますね。
 
財ラボ代表理事・定野司氏(左)と小関一史さん(右)
財ラボ代表理事・定野司氏(左)と小関一史さん(右)
 
 

2章 外に出て学び、戻って活かす「回路」

前章では、迷いを減らすために判断基準と確認手順をセットで揃え「説明の型」をつくる必要があることを確認しました。
「説明の型」があると、職員は申請や説明の準備がしやすくなり、地域での活動や学びへ踏み出す心理的なハードルも下がります。
一方で、兼業・副業は、住民から見て誤解を招きやすい側面があるのも事実です。
だからこそ、外に出て得た知見が個人に留まらず、地域や組織に還元されていく 回路 として設計できるかが問われます。
この章では、定着や人材流動化の現実も踏まえながら、外で学び、戻って活かす「開かれた公務員像」をめぐる話へ進みます。
 

 
定野 兼業・副業は、やりたい人の希望に見えがちですが、人財の定着にも関わりますね。
小関 実体験を踏まえると、「兼業ができるから行きたい」という人を増やすより、「公務員を辞めなくていいかな」と思える人を増やす効果のほうが大きいと思います。
定野 人を呼び込むという取り組みと、それ以上に辞める理由を減らすということですね。私は「公務員は身分か、職業か」という問いについて、今の若い世代の感覚は昔とは違ってきているのではないかと考えているのですが、そこにもつながりそうです。
小関 昔の考え方でいえば「身分」ですが、若い世代には通用しにくい面があります。今は「職業」という感覚だと思います。だから、職業として認められないと感じると、離職を考える人が出やすくなります。
定野 制度側も、変化に合わせた見直しが必要となりますね。
小関 自治体側が、変化に合わせなければならない時代です。
定野 自治体側のアップデートという意味では、過去に副業解禁の流れもありました。
小関 2018年に厚生労働省の就業規則モデルが「原則副業禁止」から変わりました。しかし当時、現場では変化を実感しにくかったという経験もあります。
定野 外に出て学びやすい環境をつくるには、制度だけでなく、組織としての取り組みも必要になりますね。採用や定着という面でも、民間とは違いが出ますか?
小関 はい。民間企業では、良い人財を確保するためにアウトソース(外部委託)することで、費用をかけて採用に動くことがあります。一方、自治体では同じ手法を取り入れるのが難しい面も多いと思います。
定野 辞めた後も含めて、その人とのつながりをどう保つか、という話もあると思いますが、その点はいかがでしょうか。
小関 そうですね。退職者との関係づくりでも違いが見られます。民間では、退職者に対してアルムナイクラブ(退職者と現役社員のネットワーク)を作り、一緒に集まって話す場を設ける例があります。転職先で得た参考となる情報が手に入ったり、一度外に出たことで改めて元の組織の「良かったところ」に気づくことがあります。
定野 外で得た経験が、組織に還ってくるのですね。
小関 はい。退職してから3年後や5年後に集まってもらい、「当時の話を聞かせてください」「当時、どうしたら、もう少し続けてみようと思えましたか」と聞くことで、フィードバックを組織改善に活かすところもあります。
定野 退職者の話が聞けるこのような場があると、一度退職しても戻ってきやすくなりますね。
小関 人を呼び込むことと同時に、今いる人が離れやすい状況を改善することも大切です。
定野 自治体でも、人の流動化を前提にした設計が必要になってきそうですね。
小関 はい。人の流動化を前提に、制度や運用を設計し直す必要があります。退職して終わりではなく、外で得た学びを、自治体に戻して活かせる回路をつくる。人を大事にする姿勢を、仕組みとして回していくことが大切だと思います。
 
 
 

おわりに

兼業・副業をめぐる運用が曖昧なままだと、申請する側は慎重にならざるを得ず、現場の判断も積み上がりにくくなります。
その結果、外で学び、住民と協働し、地域に関わりたいと考える職員ほど、活動の場を組織の外に求めたり、キャリアを見直したりする局面が増える可能性があります。
公務員の採用や定着が課題として語られるなかで、こうした影響は自治体にとっても丁寧に向き合う必要のある論点と言えるでしょう。
一方で、外に出て得た学びや経験が個人にとどまらず、地域や組織に循環していく「回路」を持てるなら、兼業・副業や地域での活動は、人材育成や組織運営の観点からも位置づけを整理し直す余地があります。
その前提となるのが、「説明責任」「公平性」「住民の納得感」を損なわないための「判断基準と確認手順」「説明の枠組みの明示と共有」となります。
住民の納得感を土台に、学びを地域・組織へ還元する「回路」を運用として整えることが、開かれた公務員が地域活動を通じて貢献していく基盤になります。
 
(了)(財ラボ編集部)