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【特集】公共施設再編方針・第一弾 町長就任1年目の挑戦と覚悟

 
 
古谷町長(左)と定野氏(右)。オンラインでも、古谷町長の熱量がしっかり伝わるインタビューとなりました。
古谷町長(左)と定野氏(右)。オンラインでも、古谷町長の熱量がしっかり伝わるインタビューとなりました。
 
財ラボでは2025年7月、愛媛県砥部町の古谷崇洋(ふるたに・たかひろ)町長を講師に招き講演会「選択と集中。そして、オープンに」を開催しました。
講演では、今後、町の財政調整基金が減少する可能性が示され、将来世代の選択肢を残すために「選択と集中」と「情報をオープンにすること」が必要だと語られました。
では、その問題提起の後、町長は何を決め、どう動かしてきたのでしょうか。
本特集では、町長就任後1年の取り組みのうち、公共施設再編のプロセスを中心にお話をうかがいます。
(聞き手:財ラボ代表理事・定野司)
 
古谷崇洋
愛媛県砥部町出身。32歳。地元の高校を経て早稲田大学を卒業。南海放送アナウンサーとして情報番組のMCやスポーツ実況などを担当し、地域の出来事を分かりやすく伝える現場を経験した。退社後はITコンサルタントに転身し、スマートシティの事業企画等に従事。行政・民間の両方の視点を携えて、2025年1月の砥部町長選挙で初当選し、同年2月に町長に就任した。現在は一児の父。
 
目次
 

財政状況を住民と共有


定野 早速ですが、2026年2月号「広報とべ」の「教えてふるたにさん!」で、2ページを使って「まちの台所事情」を特集された狙いをお聞かせください。
古谷町長(以下、古谷) 私は町長に就任する前から町の財政データや分析を見ていて、余裕がある状況とは思えませんでした。町の資料を見ても基金が少なくなっている。全体として厳しい状況ではないかと感じていました。
定野 就任前から、そのように捉えていたんですね。
古谷 町長になってから職員に聞いても、やはり余裕は無いという話でした。ただ、その危機感が住民の方に届いていないのではないか、とさらなる危機感を抱きました。
定野 内部の危機感と住民への情報共有は別問題で、ここが難しいところですね。
古谷 事業や公共施設を減らさなければならない局面では、住民の方と「財政が厳しい」という共通認識がないままでは進めることができず、再編の判断についても、ご理解をいただきにくいと思いました。だから、行政が持っている情報を開示し、厳しい判断について少しでも理解いただけるようにしないといけない。そこがとても大事だと思ったんです。
定野 実際、住民の反応はどうでしたか。
古谷 財政状況の住民説明会も実施していたのですが、説明会の後に「この施設の状況はどうなっているの?」と聞いてくれたケースもありました。
定野 なるほど。共有したからこそ、問いが返ってきたのですね。
古谷 みんな町のことが嫌いなわけではないと思います。自分が住んでいる町なので、興味はある。情報を届けたことでネガティブな意見もないわけではありませんが、想像以上にポジティブで前向きな意見もある、という感じです。
定野 前向きな声もある一方で、受け止めが分かれやすいテーマでもあります。だからこそ、早めに共有していくことが大事なんですね。
 
広報とべ(2026年2月号)誌面抜粋
広報とべ(2026年2月号)誌面抜粋
 

データから始める再編


定野 砥部町は、令和8年1月27日に「公共施設再編方針」を公表し、3施設を再編第一弾として進める考えを示しました。方針を公表した後、住民からはどんな反応がありましたか。
古谷 賛否両論があると思います。まず、一部過疎地域にある国保の診療所の廃止については、実は反対の声が少なかったですね。
定野 方針資料には、医師体制の見通しや利用変化などを整理し、令和9年度末で廃止、令和10年度からはオンライン診療と送迎支援を中心に移行すると明記されています。
古谷 そうなんです。次に、坂村真民記念館廃止については、町内外の多くのファンの方が非常に愛着を持っていらっしゃるので、寂しく思われる方もいらっしゃると思います。それぞれの公共施設の立ち位置と機能によって、本当に賛否両論あるなということを痛感しています。
定野 施設ごとに受け止めの違いが出てくるんですね。一方で、こうした議論では「何を起点に話を始めるか」も重要です。データをもとに、まず議論の土台を整えていく。その組み立て方について教えてください。
古谷 議論を始めるには、やはり「純然たるデータ」がスタートにふさわしいのでは、と思いました。そこで、最初はかなり厳しい内容になるかもしれませんが、議論や対話のきっかけになればと考え、あえてデータを公表することにしました。
定野 多くの施設がある中で、どこから手を付けるかは必ず問われますが、なぜ、第一弾にこの3施設を選択したんですか?
古谷 診療所と記念館のほか、陶芸創作館も伝統産業会館に統合することを決めました。この3施設は今、対応しなければならない切迫した状況だったので、スピード感を持ってやる判断をしました。
定野 第一弾として切迫度を見て、この3施設の方向性を判断したということですね。まず第一弾として切り出して再編し、同時に次の一手も探っていく。その進め方自体が、現場にとっての大きな示唆だと思います。第一弾をきっかけに、第二弾、第三弾と、次の議論が開けていくのだと感じました。
 

次の一手、遊休施設ツアー


定野 2025年11月号の「広報とべ」で遊休施設のバスツアーが紹介されています。遊休施設は、放っておくと維持管理だけでなく、いずれ解体費用などの負担も生じかねません。行政だけだと負担として見えがちですが、民間企業に見てもらう発想が印象的でした。
古谷 遊休施設の活用については、令和8年度が始まって数カ月後にはプロポーザルでの募集という流れになっていくと思います。
定野 見学で終わりにせず、次の段取りまで見据えているんですね。
古谷 行政だと基本、業務委託で支出しながら「施設を守る」という観点になりがちですが、民間企業の方だと、そこを「使って稼ぐ」という発想なんです。私たちが想像し得ないアイデアも出てきたし、実現可能性という意味でも、行政が考えるより一歩進んだリアリティのあるものが出てきたと感じました。
定野 民間目線が入ると、発想も現実味も変わる。
古谷 それに「遊休施設を民間活力で何とかしようとしている自治体なんだ」と捉えてもらえた、というのもあります。
定野 「この町と何か一緒にできるかもしれない」と思ってもらえるということですね。
古谷 民間企業の方から「何か一緒にできませんか」とか「ここの土地どうなっていますか」といった問い合わせもあり、新たな事業の話は本当に増えています。
定野 次の動きにつながっていますね。
古谷 自治体として、遊休施設というものはリスクでしかないんです。このバスツアーを呼び水に遊休施設の活用について新たな取り組みが生まれてきそうです。
定野 いわゆる「三方よし」の形になっていく可能性がある。
古谷 自治体側がネガティブに捉えすぎていると思います。「使ってない公共施設を何とかしないといけない」という課題を「施設を民間に使ってもらう」という発想に転換できたことが、今回はすごく良かったなと思います。
定野 再編というと「やめる」が前に出やすいですが「次の一手」を同時に出していくのは大事だと思いました。そのうえで、就任1年目は、方針の発出も含めてスピード感がありました。振り返ってみてどうでしたか。
古谷 方針の発出に関しては、それぞれの公共施設の立ち位置と機能によって、本当に賛否両論あるということを痛感した1年でした。
定野 第一弾として3施設を切り出し、再編へと動かしながら、次の一手も同時に仕込んでいく。さらに、守る・注力する点も先に示して、経過を伝え続ける。この運用が、現場にとって一番参考になりますね。「まず切って動く」ですね。
 

町長の夢


定野 改めて、これから先、町としてどんな方向を目指していきたいですか。
古谷 やっぱり魅力ある町を作って、町の価値を上げるようなまちづくりをしていきたい。ハードもソフトも両面あると思うんです。
定野 やるべきことに資源を集中させていく、ということでしょうか。
古谷 はい。これからも圧縮していく事業や施設はありますが、未来を見据えたまちづくりを進めていきたいと思っています。人口減少や子育て支援など、町に最もフィットする事業に集中投資する、といった考え方も含めて、SNSなどで発信を続けています。
定野 受け止めが分かれやすいテーマで住民と向き合うとき、どんなことを大事にしたいですか。
古谷 とにかく、丁寧に向き合っていくことだと思っています。いま何が起きていて、どう改善に向けて進めているのか。その経過報告も含めて随時お伝えしていきたい。必要以上に不安を広げるのではなく、住民の方に正確な情報を発信していけたらと思います。
定野 最後に、町長の「夢」を聞かせてください。
古谷 やりたいことは、将来の人たちが自分たちでいろいろ選択できる状況にしておくことです。町として選択できる余力を持っておくこと。その力をつくっておくことが、私の夢です。これから人口減少や合理化の波が来て、さらなる自治体合併の話が出てくるかもしれません。そうなった時に、私たち砥部町民がどんな選択でもできるように力を蓄えておかないといけない。
定野 「オープンに伝える/データを起点に対話を始める/第一弾として切り出してまず動かす/次の一手と注力点も並行して示す」という話が「将来世代の選択肢」という言葉につながっていることがよく分かりました。
 

エピローグ


古谷 砥部町では、公共施設再編以外にも財政状況改善に向けた取り組みを行っています。そのひとつとして、株式会社WiseVineと連携協定を締結し、生成AIを活用した財源確保や職員の業務効率化に向けた実証を協働で進めました。これにより約20時間/週相当の業務時間削減効果が確認され財政課職員の作業時間や負担が格段に減りました。事業の見直しや公共施設再編だけでなく、業務効率化によるコスト削減にも取り組んでいます。
定野 これからの自治体運営では「何を守り、どこに力を入れるか」「そのために何を見直すか」を、根拠と手順とともに説明する力が問われます。砥部町では「切って動かす」と同時に「次の一手」を発信する運用を重ねてきました。公共施設の適正化に関わる現場では、まずは議論を始められる状態をつくることが何より大切ですね。
 
(了)(財ラボ編集部)