【特集】評価制度を次年度の予算編成に活かすには
筆者プロフィール
安住秀子(あずみ・ひでこ)
1994年、横浜市役所に入庁。
総務省地方公会計の推進に関する研究会(令和元年度)委員や「横浜市財政見える化ダッシュボード」の開発などに携わる。
財政局財政課担当係長、財政局財政課財政調査担当課長、政策経営局データ経営部長などを経て、現在は政策経営・国際戦略局データ経営担当理事を務める。
横浜市では、予算編成や基本計画と、評価制度を連動させた、経営サイクル(PDCAサイクル)の実践を「データ駆動型経営」と位置付けて本年度から本格運用しています。
これにより、予算編成を担当する財政部門と、基本計画の策定・進捗管理や施策評価を担当する企画部門がこれまで以上に連動し、経営資源の最適化と施策の質の向上について効果的・効率的に議論できる環境となりました。
データ駆動型経営に移行することになった背景、評価制度と予算編成を連動させていくためのポイントなど、本市の取組を紹介します。
目次
歳出改革の仕組みとして評価制度を再構築
データ駆動型経営への移行の背景に、2022年6月議決・施行の「横浜市の持続的な発展に向けた財政ビジョン(以下、財政ビジョン)」があります。
財政ビジョンは中長期の財政方針で、この中で、減債基金を臨時財源として活用し収支不足
を解消する予算編成のやり方を2030年度までに改めることを掲げました。
達成に向け、創造・転換を理念とした歳出改革による財源創出に全庁をあげて取り組むこと、そして、歳出改革推進の仕組みとして「施策・事業の体系化、評価制度の再構築、予算編成との連動」を実施することになりました。
評価制度の再構築では、事業評価と施策評価の二層構造に見直しを行いました。
事業評価は、これまで実施していた定性的な自己評価方式から、市民ニーズ、事業実績、効率性・経済性などを客観的指標に基づいて自己評価する方式へ変更し、全事業で実施することになりました。
あわせて、施策評価を新たに導入しました。
本市の基本計画である中期計画の全施策を対象に、施策の所管部署主体のプロジェクト形式で、施策と紐づく各事業を体系的に分析・検証しています。
歳出改革の仕組みとして評価制度を再構築したわけですが、施策評価との位置付けから、歳出改革とともに施策の質の向上を目指しています。
以下、本稿では、この施策評価を中心に予算編成との連動について説明します。
予算編成は政策主導
前中期計画から、政策―施策―事業の体系化を図ったものの、予算編成自体は、これまでと変わらず、各部局の新規打ち出しに主眼が置かれた、行政目線・組織目線の編成になっていました。
これを、本年6月議決・確定した「横浜市中期計画2026―2029」では、素案段階から、市民に政策効果をいかに実感してもらうかということを、より意識して作成を進めてきました。
具体的には、市民の実感を最上位の指標(政策指標)に、その実現に向け、施策ごとに成果指標(施策指標)を設定し、そのうえで、4年間で実施する取組や事業を整理するというバックキャスティングでまとめました。
そして「計画期間の4年間で重点的に進める戦略や取組」と「市政の基礎となり、日々の生活や活動を支える個別分野別計画や業務サービス」とを区分し、このうち「計画期間の4年間で重点的に進める戦略や取組」は、「政策―施策体系図」(図1)に落とし込み、成果の発現経路を可視化しました。

このように計画段階において、市民目線で、政策・施策の「目指すべき状態」と、それを測る指標を設定できたことで、進捗や実施結果をデータに基づき検証し、検証を踏まえて毎年度の予算編成において改善を反映する、市民目線の経営サイクルの実践が可能となり、政策主導の都市経営を行えるようになりました。
図2の市民目線の経営サイクル中、C(Check)とA(Action)の囲み内に記載したデータドリブンプロジェクト(以下、DDP)が本市の施策評価です。

2024年度から段階的に実施し、今年度で中期計画の全施策での検証・改善が一巡します。
なお、DDPは一巡して終わりではありません。
1年間のプロジェクトで結論まで導けるものは、それほど多くありません。
施策効果が表れるまでに一定の時間を要する取組・事業があります。
また、分析・検証に必要なデータを集められていない取組・事業も少なからず存在します。
そのため、全施策で継続的に実践し、取組・事業の改善や見直しを適時行っていきます。
データ重視の評価
DDPでは、施策所管部署の部長級をリーダーに、所管部署及び企画担当の職員、また、関係部署である企画部門(政策経営・国際戦略局)や財政部門(行財政局)の職員も加わり、「データ収集」「分析・可視化」「検討・議論」の流れでプロジェクトを進めています。
データ分析・可視化や検討・議論では、主に①施策目的と、施策に紐づく各事業の目的との間で整合が図られているか②施策に紐づく各事業間で、同じような取組が行われていないか、実績や効果は想定どおり表れているかなどを確認・分析・検証し③施策目的達成に向けて、より効果的な事業への選択と集中や、事業の実施手法の改善など今後の方向性を検討しています。
事業単位でなく施策単位で確認・分析等を行うことで、所管部署が類似事業の存在に気づき、事業の整理統合や事業間のすみ分けができたことや、大量データの分析をデータ経営部が支援し可視化できたことで、課題が明確となり、効果的な解決策につなげられたことなどDDPの実施効果が表れつつあります。
歳出改革としても、DDP実施1年目に7億円、2年目には53億円の財源を創出しました。
DDPでの検討結果を翌年度の予算や施策立案に反映できるよう、年度前半の4~7月を中心にプロジェクトを実施し、データ分析・可視化や検討・議論を行っています。
現在は検討内容をPDF形式の資料で共有していますが、今秋を目途に、株式会社WiseVineの「Build & Scrap」を活用して、指標ダッシュボード(図3)をつくり、定期的に施策ごとの実績や取組効果を確認できるようにしていきます。

財政部門の理解・連携がポイント
評価制度と予算編成の連動は、財政部門の理解と協力なしには進みません。
本市で財政・企画両部門の連携がうまくいっている要因として、次の3点が考えられます。
第1に、予算編成スケジュールにDDPの検討をあわせたことです。
8月下旬以降の予算編成に間に合うよう、DDPは年度前半の4~7月に集中して実施しています。
とはいえ年度当初は人事異動でメンバーが入れ替わり、検討が進みづらい面がありますので、実際には、前年11月頃からデータ収集や分析・可視化に着手し、一定の準備を進めておき、4月からは方向性の検討に重点を置いたプロジェクト運営を行っています。
7月までに整理した各施策の取組の今後の方向性を踏まえて、可能なものから翌年度の予算案に反映していきます。
DDPでの検討内容は財政部門も把握していますので、各部局から提出された予算要求書にDDPでの検討結果が反映されていない場合は、所管部署に対し、修正を促しています。
第2に、評価部門を予算審査経験者中心の人員体制としたことです。
DDPでの分析・検証は、予算審査と親和性が高いため、評価部門が担わなくても、所管部署と財政部門の両部門間で予算編成の中で行っていくことは十分可能と考えます。
しかし、財政部門は予算編成だけでなく、予算の執行管理、補正予算、決算統計・財務分析など年間を通じ、多岐に渡る業務をこなさなければなりませんので、DDPに集中して取り組むことは物理的に難しいと言えます。
本市では、評価制度を再構築するにあたっては、当初から予算編成と連動させることを想定し、予算審査経験者が中心となり制度設計してきました。
そして、運用段階においても、予算審査経験者を主たるメンバーとした専任体制をとり、現在のデータ経営部へと至っています。
当部署所属職員は、半数が予算審査経験者、残りが企画部門・経理担当の経験者やデータ分析を得意とする職員等で構成されています。
このことにより、分析・可視化の品質管理の面から所管部署を全面的に支援していくとともに、今後の方向性検討の場面では、予算審査で培った知識・経験を生かし、筋の通った議論展開ができるよう、所管部署をフォローするなど、本質的な検証・改善の推進役に徹しています。
DDPの検討内容が予算審査の材料として使える精度にあると財政部門が認知できたことで、予算編成での活用につながっています。
第3に、財政部門と企画部門との良好なコミュニケーションです。
一般的に、企画部門と財政部門は対極の関係になりがちですが、本市では局長級、課長級など各階層で、財政部門と企画部門との間でお互いの取組内容など定期的に情報共有・意見交換する場を設けています。
そのため、予算編成、施策立案・中期計画策定、DDPなどの動きがオープンになっており、業務連携に取り組みやすい状況です。
また、企画部門がDDPを担当することにより、企画部門でも各取組・事業の選択と集中や転換といった歳出改革の視点をもって今後の方向性を検討していますので、対極ではなく、同志のような関係性で両部門が動いていると感じています。
評価制度の最終形はすべての経営資源の最適化との連動
DDPでは事業に係る人工(工数)の妥当性など、人員体制や業務フローも確認しています。
そのうえで、人件費に関係する課題や方向性の検討事項は、人事部門と共有し、翌年度の人員体制等に反映しています。
こうした共有を通じて、フルコストでの検証について、あまり関心がなかった人事部門においても、人員という経営資源の最適化の観点から、予算事業と人員体制を関連付けて確認することの必要性を認識し始めています。
最終的には、人、財源、資産すべての経営資源の最適化に向けて、施策評価が活用されるようになることを目指していきます。
施策評価と経営資源の最適化を連動させていけるよう、DDPでの本質的な検討をしっかり進めていきたいと考えています。
