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特集【全国自治体調査】令和7年度予算編成手法アンケート結果<速報>

         -前編- (1)予算編成手法の概要 a.市区町村における予算編成手法 b.都道府県における予算編成手法 (2)一件査定方式 (3)枠配分方式
一般社団法人「新しい自治体財政を考える研究会」研究員 髙澤 和俊(元埼玉県行田市財政課)

はじめに

 12月を迎え、多くの自治体の財政課では、令和7年度の予算編成業務が本格化し、各課からの要求内容の精査や原課への詳細ヒアリング、査定作業も順調に進んでいるところではないだろうか。  また、重点事業や既存事業の抜本的な見直しなど、地域住民の生活に直結するサービスを提供するために限られた予算をどのように配分するかについて創意工夫を凝らしているに違いない。  このような中、本研究会会員より『査定方式の状況・実態』や『自治体運営・財政手法等の先進的事例』の共有を希望する声が多く寄せられていたため、令和6年9月~10月にかけて全国の自治体に対し「令和7年度予算編成手法」に関するアンケート調査を実施したところ、全体の約4分の1を超える462自治体から回答を得ることができた。  全国から得られた回答を集計し、自治体財政の実態や知見を共有することで、持続可能な行政運営の実現に必要なノウハウを自治体の垣根を越えて共有できれば幸いである。  本特集では前編と後編(次号掲載予定)に分け、今号で取り上げる前編では〈速報〉と題して(1)予算編成手法の概要、(2)一件査定方式、(3)枠配分方式に着目して紹介する。
 

(1)予算編成手法の概要

市区町村と都道府県で異なる様相
下表は、令和7年度予算編成の査定方式の問いに対する回答を市区町村と都道府県で比較したものである。都道府県のサンプル数が少ないことに留意すべきだが、市区町村と都道府県では、採用している査定方式の傾向に違いがみられた。
 

a.市区町村における予算編成手法

回答のあった全国市区町村(n=454)のうち「一件査定」は71.8%、「枠配分」は25.8%、「その他」は2.4%という結果となった。多くの市区町村では、「一件査定」を主要な査定方式として採用し、予算編成の際に部門ごとの具体的な事業や施策が個別に精査される形が主流であることが明らかになった。
一方で、約4分の1の自治体で「枠配分」を導入している点も注目に値する。これは、決して少ない比率ではなく、その手法や具体的な事例については研究すべき事項ではないだろうか。
 「一件査定」と「枠配分」、それぞれの査定方式のメリット・デメリットを総合的に勘案し、より良い予算編成を目指して試行錯誤を繰り返している自治体の姿が目に浮かぶ。
自治体の規模により手法に差異あり
また、回答自治体における人口規模別の予算編成手法の特徴について、回答結果を統計的に分析したところ、各査定方式回答群の人口平均(令和2年国勢調査人口ベース)は「一件査定」では60,347人、「枠配分」では124,914人と、枠配分方式の方が人口規模の大きい市区町村に定着している傾向が見受けられた。
地域別でも手法に差異
 さらに、地域別に査定方式の導入傾向があるのではないか検証したところ枠配分方式は関東、東海、近畿、九州北部地域での導入割合が高いことが明らかとなり、地域的な違いが見られた(下図)。皆様の自治体は、この傾向に合致しているだろうか。

b.都道府県における予算編成手法

 一方、都道府県においてはサンプル数がn=8と少ないものの「一件査定」が37.5%、「枠配分」は62.5%という結果となり、枠配分方式の割合が多いことが明らかになった。  枠配分方式とは、原課もしくはとりまとめ課(部局)に一定の予算枠を配分し、その範囲内で予算を執行する手法であり、大規模な組織における予算編成に適しているという特徴が一般的にはあるが、その傾向がそのまま表れた格好となった。
 

(2)一件査定方式

実施年数
 10年以上継続している自治体は市区町村では92.9%(n=326)、都道府県では100%(n=3)となっており、一件査定の有効性に対する評価の高さが伺える一方、容易に査定方式を変更することの難しさを表している。皆様の自治体では、査定方式の変更について考えたことがあるだろうか。
予算全体のシーリング率(圧縮率)―ゼロシーリングが主流、プラスシーリングも!
 市区町村においては「0%シーリング」が最も回答数が多く、次いで「△5%シーリング」となった。回答自治体数を考慮した加重平均値を求めたところ△3.0%シーリングという結果であった。回答自治体からのコメントをみると「従前はマイナスシーリングを実施していたが、物価高騰に鑑み『ゼロシーリング』とする」との回答も多かった。また、一部の自治体ではプラスシーリングも見られ、インフレ下において経常経費等の増加も一定程度許容する動きも見受けられた。  インフレについて考えると、例えば最低賃金の状況は、全国平均で1,055円(厚生労働省 令和6年度地域別最低賃金改定状況)となり、今年10月以降に順次適用された額は、過去最大の51円の引き上げとなった。これらの影響により、直接的な人件費のみならず、物件費として支出されている委託料の単価が上昇する一つの要因となっている。  他方で、歳入面ではどうだろうか。歳出の増加が見られたとしても、それを賄う適切な歳入(財源)が確保されるのであれば問題はないだろう。しかし、地方財政計画の伸びを勘案しても、歳入面を楽観的に見込むのは難しいというのが肌感覚ではないだろうか。アンケートの自由記載項目を参照すると、人口減少や少子高齢化を背景として「財源の確保が困難な状況」との意見が多く見られた。
 したがって、これらのことを総合的に考慮すると、経常経費が増加傾向にある中で、安易にシーリング率の目標を上げられないというのが財政課の実態ではないかと思われる。
 

(3)枠配分方式

実施年数
 10年以上継続している自治体は市区町村では49.6%(n=117)、都道府県では80.0%(n=5)という結果が得られた。一件査定と比較すると、試行的に枠配分方式を導入している自治体が一定数あることが読み取れる。
予算全体のシーリング率(圧縮率)―一件査定と同様ゼロシーリングが主流
 市区町村においては、一件査定方式と同様に「0%シーリング」が最も回答数が多く、次いで「△5%シーリング」となった。回答自治体数を考慮した加重平均値は「△2.1%シーリング」と一件査定方式と比べ、若干シーリング率が低いという結果となったが、プラスシーリングの自治体も見受けられたことから、傾向としてはほぼ同様と考えられる。
 都道府県においては、回答5自治体中「シーリング未実施」が2自治体、他は未定等であった。
枠内予算で取り扱っているもの
 枠内予算で取り扱っているものとして事務経費や光熱水費、維持補修費等の経常経費を対象としている回答が多く、比較的査定をしやすい経費を設定していることが読み取れる。一方、人件費や扶助費、投資的経費などに踏み込む自治体は少数に限られていた。
編集後記
 記事を執筆する上で、印象的であったのがエネルギー価格や原材料価格の高騰等の影響により、あらゆる経費が膨らむ中で、経常経費を縮減することが極めて難しくなっているということでした。もはや、従来の事務事業の見直しの範疇で経費を縮減することは、困難になりつつあるのが現状ではないでしょうか?
 このような中で、各自治体の成功事例や最善の取り組みを全国規模で情報共有していくことの意義は益々高まっているものと捉えています。本研究会、またその一翼を担う者としても全国の自治体の皆様に有意義な情報を提供できるよう、継続して研究活動を行ってまいります。
謝辞
 この場を借りて、アンケート調査にご協力いただいたすべての自治体の皆様に心から感謝申し上げます。
 なお、本特集は非常に情報量が多く前編・後編に分けての提供となりますが、それでも集計結果をまとめたグラフを含め、誌面上ですべてをお伝えすることは困難なため、分析結果報告書として会員限定ページに掲載することにいたしました。是非ご一読いただけると幸いです。
 次号特集の後編では、本調査から得られた自治体の成功事例や独自の取り組みなども紹介させていただく予定です。引き続きどうぞよろしくお願いします。
(了)(財ラボ編集部)