🟩
特集【全国自治体調査】令和7年度予算編成手法アンケート結果(後編)
-後編-
(1)財政状況の共有と認識の統一
(2)業務の見える化の推進
(3)経常経費の増大への対応
一般社団法人「新しい自治体財政を考える研究会」研究員
髙澤 和俊(元埼玉県行田市財政課)

はじめに
前編では、令和7年度予算編成手法アンケート結果(速報)として、予算編成手法の概要等を紹介した。後編では、アンケート結果を踏まえ、対処すべき課題として明らかになった項目のうち(1)財政状況の共有と認識の統一、(2)業務の見える化の推進、(3)経常経費の増大への対応の3点に着目して紹介する。
(1)財政状況の共有と認識の統一
a.過大要求の回避に向けて
経常経費が逼迫している財政状況か否かに関わらず、財政課に予算を減額査定されることを見越した上で、過大な金額を要求することは望ましいものではない。
そうは言っても、肌感覚では依然として多くの自治体で多かれ少なかれこのようなケースが見受けられるのではないだろうか。財政課では、要求額と査定額の乖離を埋めるべく、粉骨砕身している姿が目に浮かぶ。
このようなことから、本アンケートでの設問で「原課(部局)からの過大な予算要求(前年度予算を超過するなど)を回避するために、財政課として工夫している取り組み」について調査したところ、結果の概要としては、改めて財政状況の共有と認識の統一が全ての取り組みの出発点であることと、財政課と原課との信頼関係の構築が重要であることが明らかとなった。原課の「やらされ感」を無くし、裁量権を委ねて主体性をもった事務事業のビルド&スクラップを進めることは、重要な観点ではないだろうか。
なお、一件査定を導入している自治体(市区町村及び都道府県)では、「原課と予算編成に対する意識の差を感じる」と答えた自治体が69.9%(n=329)と、約7割が原課との温度差を感じている結果となり、最早全国共通の課題となっていることが明らかとなった。

b.創意工夫の取り組みについて
このような中、多くの自治体では事前の予算編成説明会にて、現在の財政状況や今後の見込みを伝えた上で、事務事業の見直し等を徹底するように依頼をしているであろう。これは、言うまでもなく極めて重要な取り組みであると言える。なぜなら、正確な財政状況が全庁的に共有されなければ、自分事として捉えることはできないからである。
そこで、過大要求を回避するために財政課として創意工夫をしている取り組みについて具体的にアンケートの回答事例からピックアップして紹介したい。
- 首長から全職員へ予算編成方針をYouTubeで配信
- 事前に事業計画ヒアリングを行い、実施事業の成果を検証、予算化の有無を判断
- 予算編成要領の別紙に部局別経常経費充当一般財源要求基準額を提示
- 財政課内で原課からの相談に対応する担当スタッフ制の導入
皆さんの自治体ではどのような取り組みをしているのだろうか。
なお、調査で得られた回答結果を踏まえ、原課と財政状況を共有する際に活用できる「予算編成図解テンプレート」を本会で独自作成し、会員限定ページに公開しているので是非ご活用いただきたい。
(2)業務の見える化の推進
a.業務の見える化の重要性
アンケートへの回答で「行財政改革の取り組みの一環として、全庁業務量調査を実施することで業務の見える化を図り、ムリ・ムダ・ムラの改善に繋げる」との回答をいただいた団体があった。
これは、業務の見える化の目的と手段そのものであり、特筆すべき事例である。業務量を客観的なデータに基づいて測定することで、業務の可視化・定量化を推進することができる。それにより、業務のあるべき姿と業務の現状のギャップを分析し、属人化していた業務を減らすことによって『いつ・どこで・誰が・どのような業務を行うのか』が明確になり、業務効率化を図ることができる。一言でいえば〝見える化〟というのは、業務改善のはじまりと言えるであろう。
また、業務を遂行する上では、いわゆる〝3M〟の発生を可能な限り排除していくための取り組みを続けていくことが求められる。〝3M〟とは、『ムダ・ムラ・ムリ』の頭文字をとった呼び名だが、それぞれの語尾をとって「ダラリの法則」とも呼ばれている。これは、経営資源(人・モノ・金・情報)の問題点を洗い出すためのフレームワークであり、作業能率を下げる要因の3要素を列挙したものである。

皆さんの自治体では、このような〝3M〟が発生している状況はないだろうか。今一度、点検をしてみると改善のきっかけが見えてくるかもしれない。
b.業務改善による決算額縮減⇒予算額適正化
我が国の行政は、議会制民主主義であり、まずもって議会による予算統制がなされているため〝予算〟が重要視される傾向にある。一方、民間企業では、利潤追求のため、経営成績である利益、いわば〝決算額〟が重視される傾向にある。そのため行政は、従来は「使い切り予算」として非難されることが多かったが、昨今では、決算を重視する「成果重視型」の手法が少しずつ取り入れられてきている。
皆さんの自治体でも、予算額を査定する際、前年度の執行状況や前々年度の〝決算額〟は重要な査定根拠の一つとなっているのではないだろうか。
予算の執行段階でいかに〝決算額〟を効率化(縮減)するか、すなわち、オペレーションの効率化を図ることが益々重要になっていくであろう。財政課では、予算額の縮減だけでなく、予算執行の段階での業務改善を盛り上げる機運を醸成し、ひいては予算額の適正化を推進していきたいものである。
(3)経常経費の増大への対応
a.インフレ時代への突入
物価高騰が地方自治体の予算編成へ影響を与えている。バブル経済崩壊後、1990年代から始まる平成不況を経て、失われた10年が、20年となり、今や、失われた30年とも揶揄され、日本はデフレを長い間経験してきた。このような背景を後目に、インフレを実際に体験するのは初めてという世代も多いのではないかと思われる。したがって、インフレへの対策は感覚的には難しいものではないだろうか。また、多くの自治体では、緊縮財政の影響が未だに尾を引いており、新規事業を行う余裕すらないのが実態だと考えられる。
このような中「経常経費の増大」は最早、避けられない状態である。実際に、本アンケートで回答のあった全団体(n=462)のうち、397団体(85.9%)が「経常経費の増大」を課題として捉えていた(左グラフ)。この点、前回(2021年)の調査時点よりも有意にポイントが上昇していることからも、喫緊の課題であることが示唆される。
次章では、3つの観点を取り上げ、経常経費増大への具体的な対処方法について考察していきたい。

b.経常経費増大への具体的な対処方法
- 物価高騰(インフレ)対策 インフレとは、貨幣価値が目減りすることを指すが、例えば、現在100万円の商品は、物価が毎年2%ずつ上昇した場合、5年後には約110万円まで価格が上昇することとなる。これは、お金の実質的な価値として見た場合は、約90万円まで価値が目減りすることを意味する(厳密には、将来のお金の価値を現在のお金の価値に言い替える場合には、物価上昇分を複利で割り戻す必要がある)。一言でいえば、見かけ上同じ金額であっても、今日より明日の方が、理論上は価値が目減りしているのである。
長らく続いてきたデフレ経済下では、時間を経ても価値が目減りせずに済んだ期間もあったので表面化しなかった。しかし、インフレが進展している昨今において、このような貨幣の〝現在価値〟と呼ばれる概念は非常に重要である。とりわけ、費用が高額になりがちな投資的経費の先送りが果たして本当に合理的な判断なのか、投資時期について改めて複数の観点から考える必要がある。
また、単年ベースでは、予算の早期執行により、発注価格上昇のリスクを最小化することが今まで以上に必要となってくるであろう。

- 公共施設の保有量を縮減 公共施設の維持管理費が増大している根本的な原因の一つとして、団体が保有しているストックの総量が団体規模と比較し過大であることが挙げられる。ハコモノを一方的に悪者にするつもりはないが、公有地や公共施設等の資産を保有することは、将来の負担、つまり、毎年の行政コストを増加させる要因となる点を念頭に置く必要がある。アンケートの自由記述欄においても、公共施設の老朽化対策経費を重点課題として捉えていると回答した自治体があった。 また、公共施設等総合管理計画に基づき、遊休資産等を可及的速やかに解体や売却等を行うことは、将来に負担を先送りしないためにも重要である。公会計指標における「有形固定資産減価償却率」を活用することで、老朽化対策への支出をモニタリングすることをはじめ、事後保全から予防保全への転換や、公共施設の統廃合や複合化を進め、維持管理コストの削減を着実に着実に図っていくことが望まれる。
- 共同調達等の推進 全庁的に共通して使用する消耗品や備品等をまとめて購入することで、スケールメリットを生かし、事務コストを削減する取り組みも考えられる。これは、目先の金銭的な調達コストを削減できるだけでなく、事務自体の直接的な削減にも寄与し、また金融機関への振込手数料の削減にも繋がるものである。 とりわけ、金額的なインパクトが大きい分野としては、電力や都市ガスへの入札の導入が挙げられる。自団体のみならず、広域で連携して取り組みを行っている事例も多々あるので、導入していない団体は、今一度、できることから検討してみてはどうだろうか。
編集後記
地方自治体の財政を取り巻く環境は、今後も厳しさを増すことが予想されるため、全国の財政課が抱える課題や各自治体の先進的な事例を共有することの重要性は益々高まってきています。本会では、自治体財政に携わる皆様のコミュニティとして、有益な情報だけでなく、情報共有や意見交換の場も提供してまいります。持続可能な自治体運営の実現に向け、共に明るい未来を築いていきましょう。
謝辞
前編・後編の2回に分けて、予算編成手法アンケート結果について取り上げさせていただきました。この場を借りて、改めてご協力いただいたすべての自治体の皆様に心から感謝申し上げます。本稿が、各自治体の効果的な予算編成の一助となれば幸いです。
今後とも、引き続き、皆様にとって役に立つ情報提供ができるよう研究活動を行って参ります。(了)(財ラボ編集部)
会員限定ページにて、本調査の詳細な報告書や「予算編成図解テンプレート」が無料でダウンロード可能となっています。