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特集 予算編成・財政実務へのAI活用と展望 ― 対象経費判定AIの実証実験 ―

2030年、日本の生産年齢人口比率は60%以下になり、約644万人の労働力不足が予測されている。人手不足は自治体運営に深刻な影響をもたらす恐れがある。本稿では、AIを使った対象経費判定の実証実験を紹介し、予算編成・財政実務へのAI活用について展望する。
【執筆者】 上席研究員・橋口 和彦
元鹿児島県鹿屋市財政課職員
 

自治体財政に迫る変革の兆し

私たちが「生成AI」や「ChatGPT」といった言葉を初めて耳にしたのは、決して遠い昔のことではないはずだ。これらの技術は、今や私たちの生活や仕事の中に浸透し、さまざまな分野で活用されている。自治体の現場においても、これまで経験や勘、さらには暗黙の知識に頼って行われていた予算編成や財政実務のプロセスに、大きな変革の兆しが見え始めている
その一方で、「AI活用は夢のような話」や「AIで職員の質が落ちるのではないか」といった懸念や疑問の声も少なくない。実際、技術が登場した初期には、携帯電話が普及し始めた頃に「こんなの要らないだろう」という意見があったように、AIに対しても同様の反応があることは想像に難くない。これまでの業務は、現場での経験や長年の実績に基づいた判断が主流であり、機械的な数値だけで物事を決めるのは不安だと感じる方も多いのは当然である。
しかし、歴史を振り返れば、技術革新は常に業務の質を向上させるためのツールとして機能してきた。そろばんから電卓、手書きの文書からパソコン、そして携帯電話の普及といった変化は、決して人間の能力を奪うものではなく、むしろより高度な判断や創造的な業務に集中できる環境をもたらしてきた。今、自治体の現場においても、AIがその流れを加速させ、人手不足の解消や職員が本来注力すべき部分へのリソース配分を実現しようとしているのである。

特別交付税対象経費判定AIの実証実験

自治体財政におけるAI活用は、ただの業務効率化に留まらず、戦略的な意思決定や政策形成の質向上にも大きな影響を与える可能性を秘めている。例えば、これまで膨大な資料や各種データを基に行われていた予算査定業務が、AIによって過去の実績や事業効果を自動的に解析し、合理的な査定結果を提示するシステムの導入により、職員は本来の判断や戦略策定に専念できるようになる。人間が細部にわたって検討すべき業務と機械に処理させるべき業務とが明確に分かれることで、全体としての業務効率は飛躍的に向上すると考えられる。
実際、私たち財ラボ研究員は特別交付税の算定漏れを防ぐために、対象経費判定AIの実証実験に取り組んだ(技術協力、株式会社WiseVine)。現状は、国や都道府県からの照会に応じて、対象経費の有無を手作業でチェックし、昨年度のデータとの比較や該当の確認を行っている自治体が大半だろう。この実証実験では、AIに特別交付税に関する省令を学習させ、あらかじめ私たち研究員が抽出した特別交付税対象経費である予算情報について判断させた。すると、AIは驚くべき速さで
“省令のこの条文に該当するため、対象経費に該当します ”
と回答してきたのである(下図を参照)。1秒もかからずに、的確な根拠を示した姿には、当初半信半疑であった私たちも驚きを隠せなかった。
図:特別交付税に関する省令を学習させたAIが1秒未満で導き出した対象経費判定の実証実験画面
また、この技術は特別交付税に限らず、国庫補助金や都道府県補助金の対象経費判定にも応用が可能なはずだ。複雑な要件や膨大な関連法規を瞬時に処理できるAIの能力は、様々な補助金業務の効率化と正確性向上に大きく貢献するだろう。
さらに、決算統計業務においても、これまで数週間を要していたデータ集計や統計表作成がAIの導入により〝一瞬〟で完了する未来がすでに見え始めている
こうした取り組みは、かつて「夢のような話」として笑われていたものが、着実に現実味を帯び、自治体財政の未来に大きな明るさと可能性をもたらしている。
そして、こうしたAIの活用によって、従来の暗黙の知識に依存していた部分が客観的な数値と根拠に基づく提案へと転換されることで、行財政運営の透明性が向上するという副次的効果も期待される。

新たな技術と伝統的な知識の融合

いずれの技術革新にも、必ずと言っていいほど克服すべき課題が伴う。自治体の現場におけるAI活用も例外ではなく、一般的に、いくつかの重要な懸念点もある。
まず、AIが得意とするのは大量データの迅速な処理や、定型業務の自動化である。例えば、過去の実績や各種統計データを解析し、客観的な査定や予測を行う点では非常に有効だ。しかし、現場の細やかな判断や、人間ならではの柔軟な対話、地域の実情に基づく判断など、AIが不得意とする領域も存在する。単に数値だけに頼ってしまうと、地域特有の事情や現場の声を反映できず、結果として本来の行政サービスの質が低下するリスクも否定できない。
さらに、AIシステムの導入には初期投資や運用コストが伴う。新たなシステムの導入、職員への研修、さらには継続的なシステムのメンテナンスとアップデートなど、財政面での負担は決して軽視できない。また、自治体が取り扱う情報は機微な個人情報や重要な公共データが含まれるため、セキュリティ対策は極めて重要である。不正アクセスや情報漏えいといったリスクに対して、最新のセキュリティ技術を導入し、万全の対策を講じる必要がある。
加えて、職員の質に関する懸念もある。AIの導入により、単純な作業が自動化される一方で、AIに頼りきってしまい、職員が発揮すべき判断力や分析力が衰えてしまうのではないかという声も聞かれる。実際、携帯電話が登場した当初「家族や友人の電話番号を覚えなくなる」といった懸念があったが、今では多くの人がそのツールを上手に使いこなし、むしろコミュニケーションの幅を広げる結果となっている。AIも同様に、ツールとしての使い方を正しく学び、業務の補助として活用することで、職員の判断力や専門性をむしろ高める可能性を秘めている。
こうした課題を乗り越えるためには、AI技術の適切な導入と運用、そして職員への継続的な研修が不可欠である。AIはあくまで補助的なツールであり、最終的な判断は人間が行うべきという基本姿勢を保つことが重要だ。そして、新たな技術と我々が持つ知識や経験を融合させることで、持続可能な自治体運営の実現に大きく前進する

未来は私たちの手の中にある

これからの自治体財政は、AIと人間が協働する新たなモデルへと変貌を遂げると、私たち財ラボは確信している。AIは単なる業務効率化ツールに留まらず、透明性の高い予算編成や戦略的な政策形成の支援、そして迅速なデータ分析によって、これまでの常識を覆すほどの革新をもたらすだろう。例えば、AIの補助により、膨大な資料やデータが瞬時に整理され、職員はより創造的な業務や住民との対話に集中できるようになる。こうした取り組みは、今後の自治体運営の根幹を支える大きな力となるはずである。
未来の自治体運営において重要なのは、AIに全面的に依存するのではなく、あくまで補佐役として活用することである。最終的な意思決定や政策形成は、これまでどおり人間によって行われるべきであるが、AIの提供する客観的な根拠や迅速な分析結果が、より合理的で透明性のある判断を可能にしてくれるはずだ。これにより、住民サービスの質は向上し、限られた予算の中でも最適な自治体運営が実現される未来が見えてくる。
自治体の現場で働く皆様には、新たな技術に対する不安や懸念もあるかもしれない。しかし、技術革新は常に前向きな変化をもたらしてきた。これまでの携帯電話の普及やパソコンの登場が、我々の日常や業務をより豊かにしてきたように、AIもまた、現代の行政運営において不可欠なツールとなるだろう。大切なのは、ツールを上手に使いこなし、技術と人間の強みを融合させることである。
今後も私たち財ラボは、先進企業との連携や現場での実証実験を通じ、AI技術の可能性を追求し、持続可能な自治体運営の実現に向けた取り組みを推進していく。変化の波を恐れるのではなく、その先にある新しい可能性に目を向け、柔軟かつ前向きな姿勢で未来への挑戦を続けることが、これからの行政サービスの質を高めるための鍵になると考えている。
自治体財政の現場において、AIは単なる夢物語ではなく、着実に現実となりつつある。これまでの経験と知識を基盤に、新たなツールとしてのAIを取り入れることで、限られた人材でより効率的で透明性の高い予算編成や迅速なデータ分析、そして戦略的な意思決定が可能になる。未来の行政は、人間とAIが互いに補完し合いながら、住民一人ひとりに寄り添ったサービスを実現する、新しい時代の幕開けになると信じている。
読者の皆様が、今回の特集を通じて変革の波を見極め、より良い行政運営の実現に向けた一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いである。未来はすでに私たちの手の中にあり、その可能性を信じ、共に歩んでいこう。
※本稿も生成AIにより校正されています(笑)