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デジタル先進自治体・宮崎市に聞く~「紙」から「クラウド」、そして「AI」活用の未来へ~
2025年3月、弊会主催のセミナーに参加した宮崎市は、近年急速に業務のクラウド化を進めており、その取り組みが注目を集めている。
長年の煩雑な「紙ベース」の業務からどのように脱却し、クラウド化により具体的に何が変わったのか。
また、生成AIなどの新技術は自治体業務にどのような変革をもたらすのか。
宮崎市の取り組みと今後の展望について、同市財政課の池袋氏に伺った。


デジタル化へのブレイクスルー≪首長の強いリーダーシップ≫
定野 まず、宮崎市ではデジタル化が急速に進んでいるとのことですが、具体的にどのような状況でしょうか。
池袋 はい、ここ2、3年で本当に大きく変わりました。以前は、インターネットに接続できるパソコンが課に1台だけという状況でした。それが、今では業務の大部分がクラウドベースで行われています。文字通り「様変わり」した、という表現がぴったりです。
定野 それは劇的な変化ですね。その「急展開」は、何がきっかけだったのでしょうか?
池袋 一番の要因は、新しい市長の強いリーダーシップです。今の市長は民間感覚や経営感覚を持っており「これからの時代、自治体も働き方を変えなければ」という強い信念をお持ちでした。全庁的なデジタル化の旗振りを非常に力強く行ってくださったことが、この急速な変化の原動力です。
定野 なるほど。やはりトップの揺るぎないリーダーシップが、組織全体の大きな変革を促したのですね。上層部からの明確なメッセージが、職員の意識にも影響を与えた、と。
池袋 まさにそのとおりです。トップの強力な推進力がなければ、これほど抜本的な変化は難しかったでしょう。組織を変えるためには、首長が明確なビジョンを示し、自ら先頭に立って導くことが重要だと改めて実感しています。
「紙の山」との格闘≪非効率な過去からの脱却≫
定野 デジタル化が進む前は、具体的にどのような課題があったのでしょうか?
池袋 もう、「紙の山」との格闘でしたね(苦笑)。私が10年以上前に財政課にいた頃は、分厚いパイプ式ファイルがどんどん増えていくのが日常でした。周囲をファイルに囲まれた職場で、足元にも机の上にもファイルが置かれている、査定があればファイルと共に移動する。財政課経験者であれば共感いただける光景でした。予算査定の資料修正なんて、担当者が付箋に赤字で指示を書いてペタペタ貼るんです。査定の場では、資料に書き込まれるメモもあるため、資料そのものを差し替える時は、その内容も書き写して…。
定野 分かります、その手間!私も経験がありますが、想像しただけで大変です。
池袋 本当に手間暇かかりました。しかも、会議直前に事業担当課から「すみません、資料修正したので差し替えお願いします!」なんてザラで。「もう印刷終わってるんですけど…」なんてやり取りは日常茶飯事でしたね。
定野 そうそう!直前の差し替え、しかも間違えられないプレッシャー…。
池袋 ええ。修正後の複数回チェックは必須でした。少しでも見落とせば、誤った情報が共有されてしまうリスクがあるので神経を使いましたね。それに、会議資料や内部文書の大量コピー、これは若手の仕事になりがちで正直、結構しんどい作業でした。その頃と比べると、今は本当に「覚醒した」ような感覚です。市長が変わったことで「クラウドでやろう」「チャットを使おう」と、業務の進め方そのものが根底から変わりましたから。
コミュニケーションを変える≪チャットと「コメント機能」の可能性≫
定野 宮崎市では、コミュニケーションツールとして、チャットも積極的に活用されているそうですね。
池袋 当市では、業務のデジタル化に向けてGoogle Workspaceを導入し、生成AIのGeminiも活用しています。文章作成だけでなく、事業のロジックツリーの作成や成果指標の提案など、とにかく効率的に業務を進めることができるよう試行錯誤しているところです。その中で、チャットツールも日常的に使用しています。チャットツールを使うことにより、コミュニケーションが可視化され、論点が明確になりますし、電話で業務が中断されることも減っています。
定野 それは便利ですね。一方で、チャットのコミュニケーションについて、何か課題を感じていますか? 池袋 はい、まだ試行錯誤中ですので例えば、複数の職員が参加するチャットでは「間違ったことを聞いてはいけない」と思ってしまうのか、個別チャットで質問をする職員が一定数います。この結果、情報が共有されず、特定の職員しかやり取りを知らないという状況が生まれてしまいます。電話やメールからの移行には、少し時間が必要だと感じています。 定野 なるほど。3月のセミナーで、予算編成システム「Build & Scrap」に搭載されている「コメント機能」をご紹介しましたが、こちらについてはどう感じられましたか? 池袋 あのコメント機能は非常に魅力的だと感じました。予算資料の項目ごとにコメントを紐づけられるため、「誰が」「どの項目に」「どんなコメントをしたか」「対応状況はどうか」といった情報が一目で把握でき、システム上でコミュニケーションが完結するのは素晴らしいことだと思います。また、過去のコメントや査定履歴も全てシステム内に残るため、人事異動があった際の引き継ぎがスムーズに行えたり、過去の議論の経緯や決定に至る過程を容易に把握できたりします。これは、相当な業務の効率化に繋がると思いました。
定野 それは便利ですね。一方で、チャットのコミュニケーションについて、何か課題を感じていますか? 池袋 はい、まだ試行錯誤中ですので例えば、複数の職員が参加するチャットでは「間違ったことを聞いてはいけない」と思ってしまうのか、個別チャットで質問をする職員が一定数います。この結果、情報が共有されず、特定の職員しかやり取りを知らないという状況が生まれてしまいます。電話やメールからの移行には、少し時間が必要だと感じています。 定野 なるほど。3月のセミナーで、予算編成システム「Build & Scrap」に搭載されている「コメント機能」をご紹介しましたが、こちらについてはどう感じられましたか? 池袋 あのコメント機能は非常に魅力的だと感じました。予算資料の項目ごとにコメントを紐づけられるため、「誰が」「どの項目に」「どんなコメントをしたか」「対応状況はどうか」といった情報が一目で把握でき、システム上でコミュニケーションが完結するのは素晴らしいことだと思います。また、過去のコメントや査定履歴も全てシステム内に残るため、人事異動があった際の引き継ぎがスムーズに行えたり、過去の議論の経緯や決定に至る過程を容易に把握できたりします。これは、相当な業務の効率化に繋がると思いました。
定野 それは自治体業務の「あるある」ですね。PDFの電子資料でも、直接書き込んだコメントやメモがデータを差し替えると消えてしまう、なんてことも…
池袋 まさに!その点で、システムに紐づくコメント機能は強いです。資料そのものは更新されても、コメントや議論の履歴はシステムに残る。これなら議論の経緯が失われる心配がありません。引き継ぎも格段にスムーズになるはずです。

AIが拓く未来≪戦略的な行政運営に向けて≫
定野 セミナーでも触れましたが、今後搭載されるAI機能については、どのような期待をお持ちですか?
池袋 非常に期待しています。特に、事業名や概要を入れるだけで適切なKPI(重要業績評価指標)を推薦してくれる機能、これは良いと思いました。事業の成果指標設定は、事業担当課にとっては本当に難しい作業です。「参加者数」のような活動指標は設定できますが、「事業でどんな成果を目指し、どう測るか」という成果指標で悩んでしまう。
定野 AIがそのハードルを下げてくれるかもしれない、と。 池袋 そうです。AIがKPIを推薦してくれれば、事業担当課の負担が減りますし、我々財政担当も、設定されたKPIの妥当性を判断する上で助かります。さらに、上位施策への貢献度を測定できるようになれば、限られた予算での事業継続の判断材料として非常に有用になるでしょう。
定野 AIがそのハードルを下げてくれるかもしれない、と。 池袋 そうです。AIがKPIを推薦してくれれば、事業担当課の負担が減りますし、我々財政担当も、設定されたKPIの妥当性を判断する上で助かります。さらに、上位施策への貢献度を測定できるようになれば、限られた予算での事業継続の判断材料として非常に有用になるでしょう。
定野 AIは過去のデータ分析にとどまらず、具体的な提案もできるようになっていますから、未来志向の活用が期待できますね。
池袋 まさにそう感じます。実は先日、既存事業についてAIに代替案を出させてみたところ、私たちでは思いつかないような面白いアイデアが出てきました。これは、AIが既存の枠にとらわれずに発想できる可能性を示唆しています。今後、政策体系が整理されれば、予算分野でもより効果的な予測や提案ができるようになり、行政の意思決定プロセスに新たな視点をもたらしてくれる可能性がありますね。当市では、本年度の事業評価から、AIを活用したロジックツリーの作成やKPI推薦、先進自治体の調査などを全庁的に導入する予定です。

財ラボへの期待≪知見共有と「幸せな合意形成」に向けて≫
定野 私たち財ラボは、全国の自治体間でノウハウを蓄積し、共有することを目指しています。公開しづらい情報も含め、気軽に意見交換できる場にしたいと考えています。単に成功事例だけを共有するのではなく、失敗事例も含めてオープンに共有し、そこから新たな知見を生み出していくことを理想としています。
池袋 素晴らしい活動だと思います。財政に関する知見は、財政課だけでなく、自治体職員に幅広く求められていると感じます。宮崎市でも財政経験の少ない職員向けセミナーを実施していますが、とてもニーズが高いです。財政知識は、どの部署でも役立つポータブルスキルですから、財ラボの活動によって基礎知識から実践ノウハウ、他自治体の課題解決策が共有されることは大変有益です。
また、『成功事例だけでなく、失敗事例も含めた共有』という視点も非常に重要だと思います。成功事例は調べれば出てきますが、失敗事例は調べても出てきませんからね。実は、失敗事例の方が価値があると感じていますので、財政課と事業担当課、市民、関係者が「幸せな合意形成」に至るためにも今後より一層、財ラボの活動が広がっていくことを期待しています。
財政課と事業担当課の関係性と連携≪財政健全化と政策推進の要≫
定野 財政課職員には「お金がないときにどうするか考える」強いスピリットがあります。「お金がないからできない」と諦めがちな担当課に対し、「何とか実現できないか」と前向きに考えるのが財政課の役割です。事業担当課が「要望するだけ」ではなく、財政課と共に知恵を絞る関係になることが、自治体全体の財政運営を健全化し、より良い行政サービスの実現につながります。
池袋 おっしゃるとおりだと思います。そういった関係性を築き、連携することによって、財政の健全化や政策の推進がより力強く進むと考えます。
定野 本日は、貴重なお話をありがとうございました。宮崎市で取り組まれているデジタル化、AIへの期待、そして財ラボへの視点、大変参考になりました。
池袋 こちらこそ、ありがとうございました。(了)(財ラボ編集部)
