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財政の課題をDXの視点で―神奈川県「DX交流会」

 
7月31日、神奈川県海老名市で開かれた「DX交流会」(主催:神奈川県デジタル戦略本部室)には、県内の23市町から財政・DX担当ら40名超が参加。
当会財オタ・今村氏のほか、事例紹介として茨城県取手市、神奈川県海老名市、静岡県裾野市、そしてGovTech企業の株式会社WiseVine(以下、WiseVine社)が登壇し、財政×DXの最前線を共有した。会場は終始、実務者の熱で満ちていた。
 
神奈川県内23市町の財政・DX担当者が各グループごとに意見交換をしながら交流する様子(個人情報保護のため画像にぼかし加工を施しています)。
神奈川県内23市町の財政・DX担当者が各グループごとに意見交換をしながら交流する様子(個人情報保護のため画像にぼかし加工を施しています)。
 
 
目次
 

 

枠配分がもたらした〝質〟の転換(取手市・財政課長 谷池氏)

 
事例紹介の様子(画面左:取手市・財政課長 谷池氏)。各事例紹介後に質疑応答を行い、参加者の理解が一層深まった。
事例紹介の様子(画面左:取手市・財政課長 谷池氏)。各事例紹介後に質疑応答を行い、参加者の理解が一層深まった。
 
取手市は令和3年度当初予算編成から枠配分を導入。
狙いは財政課と事業課の「役割分担」だ。
「予算編成はコミュニケーション手段」と語る谷池氏は、枠配分の導入で予算自体の劇的な変化はないものの、「いるものはいる/ない袖は振れない」の水掛け論から脱却できた、と強調。
財政課は「いくら財源を配れるか・配分はフェアか」を検討し、事業課は「配分額の内で公共の福祉をどう最大化するか」を工夫する、という形に変化。
さらに、庁内アンケート等による予算編成手法自体の見直しも継続。取組み全体を通して、職員の財政構造への理解やPDCA意識の向上を感じているという。
 

「金額査定」から「市民メリット査定」へ(海老名市・デジタル推進課長 夏目氏)

 
元企画財政課財政係長の夏目氏は、費用対効果や後年度負担だけに偏らず、「どんな住民サービスが必要か。それをDXでどう実現するか」を起点に優先順位を決める手法を紹介
全庁で立ち上げた検討部会では、各課の課題を拾い上げ、デジタル推進課が横串で支援する。
財政とDXの両方を知る夏目氏ならではの、成果にこだわる政策論議の重要性を語った。
 

Build & Scrapで〝攻め〟と〝守り〟を両立(裾野市・財政課 伊倉氏/WiseVine社・CEO 吉本氏)

 
令和7年に財政非常事態宣言を解除した裾野市は、将来投資と健全化の両立に向け、WiseVine社の「Build & Scrap(以下、BnS)」の活用を試行
BnSは、総合計画から施策・事業、KGI/KPIまでを俯瞰する「政策体系ツリー」により、優先順位付けと戦略的な配分を後押しする。
枠配分はもちろん、新規事業の創出(Build)と財源確保(Scrap)を実現する各機能が充実。
さらにAIで、事業名と概要から適切な指標を提案し、活用可能な財源候補や関連法令の変更アラートなどを示す「Draft & Refine」も開発中だという。
 

意見交換会

 
参加者からは「政策主導の編成が進まない」「紙中心の査定から抜け出せない」「DX予算は費用対効果の議論に偏ってしまう」「収支均衡が目的化してしまう」といった本音が次々に共有された。
同じ業務を行う同志だからこその、具体策の議論へとつながった。
また、WiseVine社によるBnSのデモも行われ、参加者の関心を引いていた。
 
参加者と意見を交わしながらBnSのデモンストレーションを行うWiseVine社・吉本氏(画面中央)。
参加者と意見を交わしながらBnSのデモンストレーションを行うWiseVine社・吉本氏(画面中央)。
 

まとめ

 
今村氏は「収支均衡や健全財政は前提であり、目的は的確な行政サービスの提供だ」と指摘。
施策・事業単位のPDCAを可視化することが、予算編成のDXを前に進める鍵だと呼びかけた。
取手市の枠配分は職員を前向きにし、海老名市の市民メリット査定は意思決定を変える。
裾野市のBnSは〝攻めと守り〟を両輪化する。
――「ない袖は振れない」財政を、DXで袖を広げる
現場の熱量が、その可能性をはっきりと示していた。
 
(了)(財ラボ編集部)