🟩

【特集】調達が変わるーデジタル庁『DMP』が拓く新しい選択肢

 
多くの自治体で「財源が限られて予算編成が厳しい」「DXを進めたいが何から手を付ければよいのか分からない」といった声をよく耳にします。
サービスの選択肢は増えているものの「自分たちの自治体に合うのか」「費用対効果はあるのか」といった点で悩まれているケースも少なくありません。
こうした中で、行政のIT調達を効率化し、客観的なサービス比較や根拠付けを可能にする仕組みとして注目されているのが、デジタル庁の「デジタルマーケットプレイス(以下、DMP)」です。 本特集ではDMPの立ち上げの背景や活用方法、今後の展望についてデジタル庁戦略・組織グループの塚﨑慎太郎(つかざき・しんたろう)さん、永岡大誠(ながおか・たいせい)さんにお話を伺いました。
 
DMPとは

行政機関のクラウドソフトウェア(SaaS)調達の迅速化と、多様なベンダー参入による調達先の多様化を目的とした新たな調達方法であり、この調達手法を活用するプラットフォームとしてDMPカタログサイトが公開された。
 
 
 
目次
 
 
 

DMPを立ち上げたきっかけや当初の課題意識を教えてください。

立ち上げのきっかけは行政機関におけるIT調達の煩雑さでした。
行政側も事業者側も調達業務の負担が大きく、その結果として新しい技術やサービスの導入が進まないという課題がありました。私たちはその調達プロセスに着目し、調達の迅速化・効率化を進めています。
また、現在では、スタートアップやベンチャー企業から多くのSaaS製品が登場している中で、そういった新興企業のプロダクトも調達の選択肢に入るような調達環境の実現も目指しています。
 

自治体がDMPをどのように活用できるのか、想定している利用場面を教えてください。

DMPカタログサイトでは、DMPの概要や活用方法、調達におけるポイントなどを示した「標準ガイドブック」を公開しています。
この資料にも記載しているとおり、調達する段階だけではなく、様々な場面で活用いただけます。
 
❶ 企画検討段階
施策の立案時などIT活用の企画段階でどのようなソフトウェア・サービスがあるのか市場調査などの目的で利用いただけます。主に、DX推進課や、政策検討にあたる部署などの職員に有効活用いただけると考えています。
 
❷ 予算要求段階
導入したいサービスの価格帯を知りたい場合や、見積依頼を行う際に活用します。カタログサイトを通じた見積依頼も可能です。
 
❸ 製品選定段階
調達仕様チェックシートを作成し、これに基づいたカタログサイトでの検索を通じて調達候補となるソフトウェア・サービスを選定します。調達仕様チェックシートとは、D MPで選定するソフトウェア・サービスの仕様内容等を整理するためのチェックシートであり、現行の調達仕様書と同等の効果を持つものです。
 
製品選定後の契約手続きそのものは、DMPカタログサイト外で、従来どおり当事者間で個別契約の締結となりますが、調達仕様チェックシートと検索結果を併せて選定結果を示すものとして、随意契約または指名競争入札を行う「根拠資料」として利用いただくことが可能です。
 

DMPを活用することで、自治体にはどのようなメリットがありますか。

大きく4つのメリットがあります。
 
【1】幅広い製品を簡単に検索・比較行政向けに設計されたカタログサイトなので、販売方式、価格、セキュリティ要件など行政にとって必要な情報を簡単に比較できます。登録費用は無料で活用いただけます。
 
【2】導入実績が参照可能DMPカタログサイト上において導入実績を公開しており、どういったサービスが、どの程度の費用感で導入されたかが分かります。自治体名は非公開となります。現在はグラファー社の導入が第1号事例として公開されており、第2号以降の実績公開も予定しています。
 
【3】調達仕様書の作成を容易に負担の大きい業務の一つである調達仕様書の作成を簡略化できます。DMP上の調達仕様チェックシートを使えば、SaaS調達の検討において考えるべき項目があらかじめ用意されているため、従来と比較して仕様書の作成負担を軽減することができ、専門的知識や調達経験が少なくても作成できるのが特長です。また、調達仕様チェックシートで用意している項目がDMPカタログサイトの検索項目に対応していることから、確定した調達仕様チェックシートがあれば、仕様に基づくソフトウェア・サービスの選定が可能となります。
 
【4】契約根拠資料の作成を容易にDMP上で検索した結果を基に選定の経緯や調達仕様を記録した「ソフトウェア・サービス比較表」を出力することができます。選定理由も含めて書き出されるため、調達仕様チェックシートと併せて、決裁時の根拠資料として利用できます。検索結果が一社なら随意契約、複数社なら指名競争入札の根拠にできます。
 

これだけメリットがあるのなら庁内全体で活用したいですね。自治体職員なら誰でも登録できるのでしょうか。

行政機関のメールドメインをお持ちであれば、部局を問わず誰でも登録できます。
企画検討の過程で保存した情報はサイト上で庁内の他ユーザーへ共有することも可能です。
各ユーザーが所属する部署の割合は、現状では、およそ、7割程度がデジタル部門、残り3割は各担当部門といった状況です。

DMPカタログサイトのトップページ(画像提供:DMP標準ガイドブック)
DMPカタログサイトのトップページ(画像提供:DMP標準ガイドブック)
 

現場では「DMPを根拠に契約できるのか」という疑問も多いようです。実際のところ、契約の根拠として使えるのでしょうか。

はい、DMPを活用した調達に基づき契約をすることは制度上、認められています。
正式に総務省と協議し、今年1月に全国の自治体宛てに地方自治法に基づく技術的な助言として「調達利用ガイドブック」及び「Q&A」を発出(*1)しています。
具体的には、地方自治法施行令を根拠に、DMP上での検索結果が一社の場合は随意契約、複数社の場合は指名競争入札を行い、選定された事業者と個別契約できることとなっております。
 
(*1)デジタル庁より
「調達利用ガイドブック」や「Q&A」は、DMPカタログサイトの「行政向けご利用ガイド」に掲載されておりますので、ご参照ください。
 
■問い合わせ先 DMP運営事務局 
 

本誌の主な読者である自治体財政課としては、コストメリットがあるかという観点も気になります。

コストメリットは見込めます。
従来のスクラッチ開発(*2)では仕様策定から導入まで多くの工数とコストがかかっていました。我々としては、今年度閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でSaaSを有効的に活用することと謳われている通り、DMPによって世の中にあるSaaSを見て、これだったらスクラッチする必要がないのでは、というきっかけが生まれると思っています。
DMPを使って既製品であるSaaSを導入すれば、一から構築する場合に比べて費用面での負担が軽くなると見込んでいます。
 
(*2)既存のシステムやパッケージソフトに頼らず、特定の要件に合わせてソフトウェアやシステムを一からオーダーメイドで設計・開発する手法
 

予算編成フェーズでDMPをうまく活用したいですね。また、業務効率化についてはどの程度見込めるでしょうか。

DMPを使って既製品であるSaaSを調達すれば、職員の調達手続きに係る作業工数を減らすことができると考えています。
仕様書作成も調達仕様チェックシートを用いれば、フォーマット化された項目を埋めていくだけで出来上がるため「何をどの順に書けばよいか」といった職員の迷いがなくなり、業務効率化に寄与できるものと見込んでいます。
また、DMPの導入に合わせてWTO政府調達協定に基づく自主的措置の改正が行われております。
例えば、従来、随意契約による調達の場合、官報公示が必要であった案件についても、その公示を省略可能と改正されております。
地方公共団体への適用は協力要請ベースなので、各団体の条例・規則によっては影響が限定的な場合もありますが、自治体によっては業務負担の軽減につながる可能性があるのではないかと考えています。
 

今後のDMPの展望や、自治体向けの新機能追加があれば教えてください。

現在、掲載されているソフトウェアは約400件で、今後も多くのソフトウェアが登録されるよう事業者へ呼びかけを強化していきたいと考えております。
特に地方で活躍されている中小企業やスタートアップの参画を増やしていきたいと考えています。
自治体の方々からもお勧めできるSaaSベンダーがお近くにいましたらDMPをご紹介いただけると大変嬉しいです。
また、年末に向けてユーザーインターフェースの大幅なアップデートを予定しています。
行政利用者が企画検討、製品選定といった活用フェーズに合わせて最適な操作ができるよう機能アップを行っていきます。
利用者からの声を反映し、より直感的で分かりやすい設計を目指しています。
行政の利用者向けには伴走サポートを行い、少しずつ実績を作って横展開していく活動を進めていきたいと考えています。
 
デジタル庁戦略・組織グループの塚﨑さん(左)と永岡さん(右)
デジタル庁戦略・組織グループの塚﨑さん(左)と永岡さん(右)
 

 
システム調達にあたり、多くの自治体がDMPに関心を持っています。
私たち財ラボとしても、DMPの仕組みを正しく伝え、自治体の皆さんが実際に活用できるよう発信していきたいと思います。
(了)(財ラボ編集部)
 
 
WiseVine社(財ラボ連携企業)より

WiseVine社では、予算編成・経営管理システム「Build & Scrap」をDMPへ掲載中です。今後のサービス選定のご参考にご覧いただけると幸いです。
■ デジタルマーケットプレイス(DMP)