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高浜市職員研修報告 数字の裏に”まち”を読む
【背景】持続可能な財政運営に向けて
近年、多くの自治体の当初予算編成において、人件費や扶助費の増加、物価高騰、公共施設運営の在り方など、さまざまな課題に直面している。
こうした中で、財政調整基金に依存しない持続的な財政構造の確立が喫緊のテーマとなっている。
愛知県高浜市でも、限られた財源を有効に活用しながら、経常的経費の見直しと新たな財源確保の両立を図ることが、今後の安定的な財政運営に向けた最優先の課題となっている。
このような財政環境の下では、財政課のみならず、すべての部局が財源の制約と現状を理解し、自らの事業を「まち全体の視点」で考えることが不可欠である。
こうした共通認識を庁内に浸透させ財政を自分事として捉えてもらうべく、2回にわたり職員研修が開催され、財ラボが講師を務めた。
目次
第1回研修 予算を組むという体験
第1回研修では、自治体の予算編成を参加型の演習形式で体験した。
参加者は架空のまちの管理職役となり、限られた財源の中で事業や財源の優先順位を決定した。
たとえば、新規事業の実施可否、借入や基金取崩の判断、既存事業(管理職一人につき3つの事業を実施中という設定)の廃止など実際の予算編成を想起させるつくりとした。
参加者からは、「楽しいけれど、どの選択にもトレードオフがある」「決断の遅れは基金を減少させてしまう」「誰のための支出かを考える視点が必要」といった声が聞かれ、意思決定の難しさと重みを共有した。
研修で扱った仮想事業は子育て支援や高齢者福祉、施設老朽化対策、カーボンニュートラル推進など、実際の行政課題を反映させたもので、参加者はそれぞれの部署視点を持ちながらも、まち全体のバランスを意識して議論を重ねていった。
最後のフェーズでは、自分たちの理想とする「未来のまち」の姿を発表し、最も評価の高かったチームが表彰され、楽しさの中に意思決定の難しさと重みを実感する機会となった。

第2回研修 数字で見る現実
第2回研修では、高浜市の財政状況や財政構造の健全性、将来負担の兆候などを、実際の財政データや経常収支の黒字と資産形成赤字の関係、基金残高の推移、公共施設老朽化率、施設単位の行政コストと受益者負担率などの指標を用いて分析した。
あわせて近隣自治体との比較も交え、市の財政構造の特徴を明らかにしていくにつれ、「これまで財政が厳しいと言われても実感がなかったが、近隣自治体とのデータ比較で初めてその実感が湧いた」といった声も聞かれた。
多くの職員が市の現状を改めて認識し「今ある資源をどう守り、どう活かすのか」を考える契機となり、第1回の研修での体験が現実の課題意識へと深化した。
参加者の声と気づき
参加者アンケートでは、次のような声が寄せられた。
「財政視点の数字がぐっと身近に感じられた」「他部局と話すことで、自分の担当事業を全体視点で考えられるようになった」「最初は難しい話だと思っていたが、楽しく学ぶことができた」など、財政を自分事として捉える意識の広がりが示唆された。
一方で「実際にどの事業を見直すべきか、その判断基準を知りたい」「廃止や統合を進める際、上司や住民への説明の仕方を学びたい」といった実務的な要望も多く見られた。
こうした意見は、今後の庁内研修や実務における重要なヒントとなるだろう。
まとめ
今回の研修を通じて、職員は財政の数字を「遠いもの」から「自分の業務とつながる身近なもの」として捉える意識を高めた。
今後は、体験とデータで得た理解をもとに、現場の意思決定や政策形成に活かす実践段階へと進めていくことが期待される。
これは、職員同士が数字を共通の言語として対話し、相互理解を深める文化を育む取り組みでもある。
職員が財政データを基に検討を重ね、施策の優先度や資源配分を議論する文化が根づけば、財政はより開かれたものとなる。
その一方で、説明責任・合意形成の仕組みづくりなど、次のステップに向けた課題も残されている。
職員一人ひとりの小さな一歩の積み重ねが、持続可能な自治体経営を支える確かな力となっていくことが期待される。
(了)(財ラボ編集部)
