🟩

特集 「強い財政」を生む組織運営の極意

 
当日の会場の様子。左から裾野市副市長・及川さん、佐倉市財政課長・塩浜さん、川西市副市長・松木さん、横浜市評価制度推進担当部長・安住さん、公益財団法人日本生産性本部上席研究員・月刊「ガバナンス」元編集長・千葉さん
当日の会場の様子。左から裾野市副市長・及川さん、佐倉市財政課長・塩浜さん、川西市副市長・松木さん、横浜市評価制度推進担当部長・安住さん、公益財団法人日本生産性本部上席研究員・月刊「ガバナンス」元編集長・千葉さん
 
新しい自治体財政を考える研究会(以下「財ラボ」)初のオフラインカンファレンスイベント「ウィズコロナ時代の自治体経営~強い財政をつくる人·組織とは~」を、5月17日から三日間掛けて東京ビッグサイトで行われた「自治体総合フェア2023」(日本経営協会主催)内で開催した。今回は同カンファレンスのパネルディスカッションの内容から、「強い財政」を生むための組織運営について考える。
 

全体で共有する強い財政へ

まず話題となったのは「強い財政」をつくるための具体手法や環境づくりについて。登壇者からは「財政推計など長期的な見通しだけでなく、これに沿った具体的な計画をつくり分かりやすく庁内に伝える」「『強い現場』が必要で、しっかりとしたエビデンス(根拠)を持つことでセルフチェックできることが重要」「財政部門・人事部門が変わらなければ現場は動かない」といった意見があがった。   前例踏襲ではなくエビデンスによって判断する「柔軟性」と短期・中期・長期で対処法を考える「計画性」を持つこと/財政推計や実施計画などはつくって終わりではなく、分かりやすく庁内に伝え、職員全体で共有することが強い財政に繋がっていくこと/人事課や財政課が変わることで現場も変わることがポイントだ。  財政運営には政治も大きく関わる。登壇者からは「地方自治体固有の財源である地方交付税を『親からの小遣い』と対外的に説明している自治体があるが、『小遣い』ととらえている状態では国と自治体が対等である意識はなかなか芽生えない」「自治体職員が民意を受けて当選した首長の方針に沿って動くのは当然だが、トップが変わったことによる極端な変化が生まれないように総合計画や行政計画などを持っているのが自治体の強み」「予算が可決されたということは、議会にも首長同様の責任が発生する、という意識付けのための情報発信が必要」「議員にも限りある予算の枠の中で要望する意識を持ってもらうことが大事」といった意見があがった。  自治体は国と対等であること/議員にも予算内で要望を出す意識、可決した予算には首長と同等の責任が発生する意識を持ってもらう情報発信が必要/自治体職員が民意を受けて当選した首長の方針に従うことは当然だが、総合計画や行政計画などで安定した運営ができる仕組みになっていることがポイントだ。

広い視点を持った組織づくり

最後は強い財政を持続可能にする「強い組織・人」づくりに話題が及んだ。 「他部署事業との連携や民間企業・市民団体と協力するなど現場が広い視点を持った予算要求をする意識付けが大切」「役職者は若い部下の仕事に対し行く先の石をよけるようなサポートを(やりすぎも良くないのでさじ加減が重要)」「財政課と現場が一緒に予算を編成・執行し、市民や民間企業などステークホルダーの喜びを共有することでビルド&スクラップのモチベーションが維持される」「民間経験者を取り入れることで役
所の血の流れが変わり、庁内全体が変わっていく」といった意見があがった。  現場が庁内外にわたる広い視点を持つ意識付けが大切であること/財政課と現場が一緒に予算をつくることがモチベーションの維持につながること/中途採用などで民間経験者を積極的に採用することなどがポイントだ。
 

登壇者が考える「極意」

 
経験則に固執せず連携を
 
 
 
 
 
佐倉市財政課長 塩浜克也(しおはま・かつや)さん
少子高齢化の響や公共施設等の老朽化、先の見えない物価高騰など、自治体財政を取り巻く状況は、今後ますます厳しくなることが見込まれます。 一方で、これを支えるべき国の動向は、十分に見通しがたい現状がある。
困難に直面した際のNGワードがあります。 「こんなこと意味がない」「最初から不公平だ」「やっても無駄だ」。これらを口に出すと、思考も作業も止まりがちです。 口に出そうなときは、「じゃあ、どうする?」とご自身に問いかけてみてください。
経験則だけでは危ないので、根拠を探すことを心がけたい。 根拠を知れば、可能性が見えてきます。 大事なのは、財政部門と事業部門との連携と協力。知識や技術の共有と継承です。 役所内でタテ・ヨコ・ナナメの連携に、役所の内外で公式・非公式のネットワークの構築に努めてください。
仲間は、全国にいます。地方団体の連携と協力によって、困難を乗り越えていきましょう。
 
「VUCA時代」の財政運営を
 
 
 
 
公益財団法人日本生産性本部上席研究員・月刊「ガバナンス」元編集長 千葉茂明(ちば・しげあき)さん
議院内閣制の国会と異なり、地方政府は首長と議員が個別の選挙で選ばれ、二元的代表制と言われる。 首長は独任制、議会は合議制の機関。そして自治体職員は首長の補佐機関である。そのため現職とは異なる政治姿勢の首長が新たに誕生した場合、職員は「行政の継続性」に不安を覚えることになる。
特に影響が大きいのが企画、財政系の職員だ。最近ではポピュリズム型の首長(たとえばコロナ対策給付金配布、給与や定数削減を主張)も台頭しているが、以前から顕著なのは大型公共施設(庁舎や公立病院など)の建設是非が首長選の争点になったケースだろう。
推進派の現職に対し、事業の見直し・廃止を主張して新たな首長が誕生した場合、財政職員は、まずはこれまでの経緯と財政状況を説明するだろう。 それで納得してくれればいいが、選挙公約を反故にできないとなれば、議決案件であっても(議会が条例等を可決済みでも)、新首長は自身の政治姿勢を貫こうとする。
現在は、予測困難な「VUCAの時代」。 政策には「絶対がない」、「より良い」政策づくりに向け、最善を尽くす、と割り切ることが肝要だ。 そこで問われるのは発想の転換。 経常的経費や公共事業費などで先送り可能なものはないか、と優先順位を見直す契機になるととらえてはどうだろうか。
 
意見交換と実践を繰り返す
 
 
 
 
 
横浜市評価制度推進担当部長 安住秀子(あずみ・ひでこ)さん
「強い組織・人」をつくるにはどうすればよいか。 改めて考えてみると、上司の受け売りですが、「考動」がポイントだと思います。 業務目的をメンバー間でしっかり共有、目的に向かって、「自ら考え、行動する(=考動)」との日々の実践が、結果として組織や人を強くすると思います。
分野は異なりますが、ヨーロッパでは、人口増加を目的とした行政計画は作成していないと聞きました。 どういうまちをつくるかが重視されていて、魅力的なまちづくりをしていけば、そこに自然と人が集まってくるとの発想だからです。 組織や人についても同じことが言えるのではないでしょうか。
本研究会も然り。 施策の実施と持続可能な財政運営の両立が、ひいては、住民の安心・安定につながります。 そのために、財政部門ができることは何か、意見交換と実践を繰り返していくことを通じて、本研究会、そして、みなさん方財政部門の組織・人をぜひとも強くしていきたいですね。
 
財政課は現場の考える力をサポート
 
 
 
 
 
川西市副市長 松木茂弘(まつき・しげひろ)さん
先日、財政担当職員の研修会で、多くの職員から予算編成方法の行き詰まりについての悩みを聞きました。 枠配分方式でマイナスシーリングを課しているものの、枠を超えての要求が常態化して機能しなくなっているという悩み事です。 この悩みは財政担当職員からの目線になっていて、自治体全体でどうすればいいのかという行政経営全体からの視点が欠落しているように感じています。 特に、枠配分方式の予算編成手法では、財政担当課がどう機能的に進めるかという視点からではなく、現場が自ら機能的、効果的な予算編成をするにはどうすればいいのかという視点が必要です。
本来の枠配分方式は、サービスの前線にいて、事業の課題と解決方法に熟知している現場が資源の最適配分を自ら考えていくものです。 財政担当課はそのサポート役であるべきだと考えています。
枠配分方式における大切なポイントは、現場に自由度をどれだけ与えることができるかです。この積み重ねが強い現場をつくり、結果として強い財政につながるものだと考えています。
 
学びあい「強い現場」をつくる
 
 
 
 
 
裾野市副市長 及川涼介(おいかわ・りょうすけ)さん
財政初心者の立場から、大先輩方に教えを請う気持ちで質問させていただきました。 読者の皆様が「強い財政」について考える一助となることができていれば幸いです。
私にとっても、パネラーの皆様の取り組みは参考になることばかりでした。 「強い財政」は柔軟性と計画性から成ること。 「強い財政」以上に「強い現場」が一層重要なこと。 現場を強くするには事業評価が欠かせないこと。 その他にも、持続可能な財政を測定する指標の工夫、職員育成の工夫など、「強い財政」を具体化する要素を多面的に教えていただきました。
突き詰めると、塩浜さんの「頼れる人は必ずどこかにいる」という一言が、このイベントの軸を表していたように思います。
まずは財ラボの皆様のお知恵をお借りしながら、いつか多少の情報を還元できるように、当日イベントに参加していた財政課職員と共に頑張らなければと、改めて感じた一日でした。
 

財ラボ考察

3つの極意で「人のなる」を育てる
財ラボは今回のパネルディスカッションで交わされた議論を全国自治体とりわけ財政課職員に形式知化して届ける使命を感じ、改めて登壇者の方々に「強い財政を生む極意」を伺い「3つの極意」としてまとめた。
もちろん、限られた誌面で全てを伝えることはできないが、分かったことがある。強い財政を生むのは「金」ではなく「人」だということだ。
この世に「金のなる木」はなくても「人のなる木」はあるのではないだろうか。下記にまとめた3つの極意(種)を皆さんの組織(土壌)にぜひ、蒔いてほしい。