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財ラボリレートーク

「財ラボ会員がイマ考えていること」を聞く「財ラボリレートーク」。
今回は全事業の事業概要や積算根拠をまとめた「予算資料」「決算附属書類」による情報開示と人材育成に力を入れている茨城県つくばみらい市総務部財政課の境野滋彦(さかいの・しげひこ)さんにお話を伺いました。                                       【聞き手  代表理事・定野司】
 
 
これまでのご経歴を教えてください。
入庁してまずは総務課に配属になり、その後企画課、税務課、都市計画課を回りました。 そして、当時の予算担当者(現総務部長)が予算・決算で庁内を仕切る姿に憧れ、財政課へ異動希望を出したところ、翌年の係長昇格時にすぐ異動となりました。 恐らく誰も希望していないのでしょうね(笑) 係長時代は計6年財政課にいました。財政課には、財政係、管財係、契約検査係がありますが、私はずっと財政係で、起債業務1年、予算業務4年、最後の1年は後輩に業務を移譲しサポートをしていました。 国交省出向2年、総務課2年を経て、2年前に課長補佐として財政課へ戻り、現在は財政課長に就いています。

財政課で最も苦労したことはどんなことでしょうか。
お金がないことに尽きます。 どの職員も予算があるときの財政課には行きたいと言いますが、私が財政課に配属されてからそんな時代はなく、これからも来ないだろうと思っています。 前述の現総務部長が予算担当の時代、財政推計を見て「破綻する」と言ってましたが、結局、私の代でも破綻していません(笑) 自治体って意外とつぶれないんだと感じました。 とはいえ財政調整基金の残高が減ってきている状況なので、先日、市長名で全職員に向けて「財政状況は厳しい」という通知を出しました。 このままだと職員の給与が本当に無くなるよ、と釘を刺すようにしています。

原課はどんな反応でしたか。
なかなか浸透しませんね。 そんな中でも1400人規模の中学校の建設が予定されていて、今が最も危ないのではないかと危惧しています。 誰もが財政健全化という総論には賛成しますが、自分の事業を削るという各論は反対なんです。 自分の事業だけを残すことを考えないよう言っているのですが、難しいですね。

財政課長になられて、現在のお仕事はどうですか。
財政課の3つの係のうち管財係・契約検査係は素人で、分からない業務がまだまだあります。 本市は人口が5万人ですが、人口が倍の近隣市を見ると、財政課、管財課、契約検査課と3つの課に分かれているんですね。 課長1人が考えなければならない範囲が全然違うと思いました。 また、人材育成の面は特に課題に感じています。 枠配分方式を取り入れようとすると、各部に1人は財政経験者が欲しいのですが、本市では予算が分かる職員が少ない。 そうすると、やはり積み上げで財政課が一から全てチェックしないと、どれもこれも要求され、予算が全然足りない状況が発生してしまいます。
 
たしかに私も足立区で包括予算制度を導入する際、部の予算のまとめ役として財政課職員を原課にどんどん出していました。この体制にもっていくまでが大変ですよね。
本市もそのように配置したいのですが、現在、財政係は、課長補佐が1年目、主査(予算メイン担当者)が7年目、主事の2人が2年目と1年目なので、各部から要求のあった予算を集計するだけで精一杯です。
 
大きな組織でない場合、人事異動をしっかりやっておかないと1人崩れたときに大変なことになりますね。職員が少ない中でも特に力を入れて取り組まれていることはありますか。
予算・決算の情報公開は、市の事業のPRの場と考え、充実した「予算資料」「決算附属書類」を作成し、ホームページで公表しています。 これは、予算書や決算書に載せている情報と同じことを書くのではなく、全事業について事業概要や積算根拠を掲載するようにしています。 また、本市が会員になっている団体の負担金一覧を載せていて、活動内容と加入している意義、メリットを書くように各課にお願いしました。 最近は、コロナ交付金の使途一覧を掲載しているので、どんどんとページが増えてしまいました。作成する職員は大変ですが、資料を見れば予算委員会で説明がいらないところまで落とし込もうとしています。 あとは財政課長になってから、月に3回程度、庁内のグループウェアに「財政課長のつぶやき」というのを配信しています。 財政、管財、契約に関する情報提供や注意喚起を行っていて、財政課のPRをしているような感じです。
 
素晴らしい取り組みですね。
また、財政課以外の部署を巻き込んだ取り組みとして、若手職員からの財源確保に関する市長への提案募集を今年から始め、3組5人から応募がありました。 自分の担当業務とは直接関係のない提案の行先がないため、職員提案の仕組みは必要だと思っています。
 
若手育成にも注力されているんですね。今の若手職員に何を期待していますか。
与えられた仕事をこなすのは当たり前なんです。 与えられた仕事をこなすだけではつまらないし、多様化する市民ニーズに応えられなくなります。 様々なことを経験し人間の幅も広げる。 これを磨くためには与えられた仕事以外に自分がやりたい仕事にも取り組んだ方が良いと思っています。担当課に提案してもいいし、自分でやってもいい。 市長もどんどんやっていいと言ってくれています。 講演会などで様々な分野の人の話を聞くことも重要だと思っています。 もちろん、今すぐ結果が出るとは思っていませんが、経験という「点」を増やしていくことで、やがて線になり、線が面になり、面が立体になってくる。 点を増やさないことには多様化する市民に対応できないんです。 昔はやるべき業務がおよそ決まっていましたが、今はあれこれ要望が届く時代ですから。 ただし、大事なこととして、仕事を楽しむことを忘れてはいけないと思っています。
 
こういった遺伝子をまいて、引き継いでくれる人を生むことが大切ですね。
これまで職員向けの講演会を主催したり、職員提案の仕組みを作ったりと色々やってきたことで「手を挙げてもいいのかな」という職員が少しずつ出てきました。 もう一歩踏み出す勇気を職員に持ってもらうために、こちらが実践してその姿を見せなければならないと思っています。 いくら良いことを言っても動かない人間は信用されません。 なお、頑張った若手には市長との懇親会の場を設けています。ご褒美になっているかはわかりませんが(笑)
 
ありがとうございました。
 
 
本文にもありますが、境野さんは様々な分野の講師を招いて講演会を開催しており、先日、財ラボの「出張講演制度」を利用し代表の定野も登壇させていただきました。 出張講演をご希望の方は下記よりお問い合わせください。