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財ラボリレートーク

「財ラボ会員がイマ考えていること」を深掘りする「財ラボリレートーク」。
初回は今年3月まで茅野市で財政課主査を務め、4月から財ラボ研究員として自治体財政を支える道を選択された栁澤美奈(やなぎさわ・みな)さんにお話しを伺いました。
                             【聞き手  代表理事・定野司】
 
 
市役所には何年勤め、財政課ではどんな仕事をされていたんですか?
市役所には11年勤め、財政課にはこの3月まで5年在籍していました。 財政課では毎年、事務分掌をローテーションしていたので、5年間でほぼ全ての仕事を担当しました。
私が財政課に異動になったときにはすでに「市の財政は厳しい」と言われている状況でした。 新しい事業を始めるための予算がないので、財政課の立場からすると、いろいろな方法を使ってやめていくものを考えるように話をしなくてはいけないのですが、一度始めたことは、なかなかやめられないんですよね。
 
事業をやめるのって本当に大変ですよね。住民の皆さんに怒られながら、ようやく事業をやめて財源を生み出したのに、褒められるのは財源を使う人だったり…
やめた事業分の予算を、その事業の所管部署が使えるかというと、そうでもなくて。予算をどんどん使っていく部署がある一方で、事業をやめた部署は「なぜ自分たちばかりやめなければいけないの」と感じてしまう。
事業仕分けのようなことも行ってみましたが財政サイドと原課で議論が堂々巡りすることもしばしば…
数年前には、少子化による園児数の減少や保育士の不足などを背景に、市立保育園の統廃合の計画を公表したことがありました。 ただ、住民の方々の意見や、様々な事情から廃止には至らなかった。 最終的には市立保育園の民営化で落ち着いたんですが…。
 
事業をどういう思想でやめるか、自治体全体から見たらどうなのかということは、例えば、子どもの施策と防災対策のどちらにウエイトを置くか、といったもっと上流から見ることも必要ですよね。
それが総合計画や市長の公約でしっかり方向づけられているといいですね。 茅野市では、今まさに第6次総合計画を作っている最中です。 今、コロナやDXの影響で自治体はどんどんスピードアップしていて、始めなければならないことがたくさんあります。 本来は何か始める時に「代わりに何かをやめる」という議論があっていいはずだけれど、それがうまくいかず事業が増えてきている印象です。 そこへ、高齢化による社会保障費の増加や施設の老朽化による維持管理費の増加などで経常経費が積み上がり、財政状況は硬直化しています。 毎年の予算編成はその危機感と閉塞感のなかで、試行錯誤でした。
 
茅野市ではどんな形で予算編成をしていますか?
茅野市では平成26年度当初予算から行財政改革の一環で枠配分方式を始めました。 最初は枠に収められませんでしたが、次第に機能してきて、平成28年度当初予算から基金を取り崩さずに予算編成ができる状況になりました。 このまま枠配分方式を続けていこうとしていたのですが、一部事務組合の施設の更新があったときに負担金だけで億単位の経費が上乗せになり、枠の中に全く収まらなくなりました。 そうして枠を超えた予算要求を受け取り始め「枠なんて守ってもしょうがないね」という雰囲気が出てきて、機能しなくなってきたんです。
枠配分方式だと部の中で調整しなくてはいけなくて、最初は、少し盛っていた事業費を減らしたり、内部努力で枠の中に収めたりしていましたが、そのうち本当にやめないと収まらなくなって、部の中で調整機能が働かなくなったんです。紆余曲折を経て、今は一件査定に戻っています。
 
どういう部長を置くのか、人事と財政運営のリンクは重要ですね。そういった悩みを持つ自治体は全国にたくさんあると思います。ところで、市役所をやめ、財ラボで働こうと思ったきっかけはなんだったんですか?
そろそろ異動の順番かな…と財政課での業務を振り返ったとき、自分自身がこの5年ずっと悩んできたことに対して、「何も答えが見つかってないな…」と。 そんなときに専門誌「財ラボ」(以下、「専門誌」とする)の創刊号を見て「ここなら答えが見つかるかもしれない」と思ったんです。 財ラボの活動は茅野市だけでなく他自治体のためにもなることだと感じました。 財政課が明るく前向きであれば、全庁的な雰囲気も変わってくるはずだから、そのお手伝いができればなと。
 
創刊号は1月末の発刊ですが、そのときはまだ転職を決めていなかったんですね。
そうですね。 ちょうど予算編成が落ち着いてきた時期に創刊号を読んでいて「どうしたらうまく予算編成できるかな」と私が悩んできたことが、財ラボに生かせるかもしれない、こういう仕事なら私もできることがあるかもしれないと思いました。
 
この専門誌がきっかけのひとつだったんですね。嬉しいです。財ラボではどんなことを実現したいですか?
今まで、スクラップの方法について何をどうやってやめてもらうかずっと悩んできたので、そこを打破する方法を考えたいです。 例えば、保育園の統廃合であれば、どうやって進める? 何の資料を使って? どんなスケジュールで? 他の市町村はどうなんだ?と情報が何もない中でやらなければならなかった。 一人で抱え込んでしまいそうな状況を打破することができれば、と思っています。
 
最後に今後の意気込みをお願いします
専門誌が、財政課の職員が毎晩遅くまで残業していたり、原課の愚痴をこぼしていたりするところに入り込む触媒になれればと思います。 自治体ごとに置かれた環境が違うとは思うんですけど、例えば「専門誌にこうやって書いてあるよ」「こういう自治体があるから、ちょっと聞いてみよう」というように、財ラボの活動を通して、自治体が前向きに変わっていくきっかけを提供できればいいなって思っています。
 
専門誌での発信はもちろん、本会、分科会の活動や、査定のノウハウのダッシュボード化など、全国自治体の悩める財政課の皆さんのために、一緒に取り組んでいきましょう。本日は、ありがとうございました。
 
 
茅野市役所出張所もある複合施設「ベルビア」でお話を伺いました。