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特集 決算業務は煩わしい!?

 
財政課の業務は広範で、予算編成だけでなく、議決された予算の配分や執行管理、地方交付税の算定、検収、地方債による資金調達など多岐にわたる。その中で、決算や決算統計に関する業務は財政課にとっては言わば煩わしい業務の一つとなっている。法令で定められた決算や決算統計はできることならばさっさと片付けたい。一方で、予算執行に主眼を置く事業部門は決算にはあまり関心がなく、決算統計に至っては存在すら知らない職員もいる。令和5年度も終わりに近づき、本号では、財政課の決算や決算統計に関する業務について現状の課題を整理し、あるべき姿を考察する。
 

決算調整

自治体の決算において最も重要なのは赤字を出さないことだ。令和3年度、1,788自治体のうち赤字だった団体はゼロだった(令和2年度は1、令和元年度はゼロ)。全国唯一の財政再生団体であるY市も実質収支は黒字。さらに、大きな黒字を出さないことも重要だ。仮に大きな黒字を出せば首長や議会から予算の見積りの甘さを指摘されるだけでなく「もっとやりたいことができたじゃないか」と指摘され、住民からは「税金の取りすぎだ」政府からは「地方交付税交付金の過大算定ではないか」と責められる。  そこで、できるだけ正確な収入見込みと執行見込みの下、基金や特別会計とのやりとり、起債の発行額などを加味して実質収支額を決めるのが決算における財政課の重要な仕事(決算調整)になっている。決算調整の実施にあたっては予算を動かすこともあるため、出納整理期間に入ってからではタイミングを逸してしまうことがある。決算に向け、実質収支をにらみながら執行管理を行い、場合によっては年度末までに補正予算を編成する必要も出てくる。「予算は、会計年度経過後においては、これを補正することができない」(地方自治法施行令第148条)からだ。昨年、赤字決算を出したO県は収入見込みを誤った。これを財政課の力だけで予測し回避することは困難であり、正確な収入見込みと執行見込みには財政課と事業部門との緊密なコミュニケーションが必要とされる。
 

決算の意義

決算や決算統計は財政状況を俯瞰して分析するにあたってとても役に立つ情報がまとめられている資料であるため、ぜひ活用したい。また、住民への公開や議会へ財政状況を報告する際には分析結果を併せて示すことも求められる。  とはいえ、決算を個々の事業予算に反映する・しないの判断を数字だけで完結させることは不可能で、各事業の効果や必要性を含めて評価・点検する「事務事業評価」や、それに代わる何らかの「評価」がセットになる必要がある。
 

決算の活用が難しいワケ

重要であるはずの決算や決算統計が煩わしく感じるのは、多くの時間を投じながら、これらの情報が予算編成や予算執行に十分に活用できていないからである。このことは(一社)新しい自治体財政を考える研究会(以下、本会)と多くの自治体とのやりとりの中で明らかになっている。そこで本会で活動する行財政のプロ「財オタ」や本会メンバーに決算統計作業にどれくらいの工数や時間を要しているかアンケート調査を実施したところ、300時間以上もかかっていることが判明した(図1)。ぜひ、自身の所属する自治体と比べてみてほしい。
このように多くの時間をかけて作成する決算統計が、なぜ予算編成や予算執行に十分に活用できていないのか。主な原因として考えられるのは「危機的意識の欠如」「情報の非対称性」「リソース不足」の3つだろう。
① 危機的意識の欠如
これまで財政課は「財政難だ」「お金が無い」「破綻する」と注意喚起をしてきたが、結局のところ財政破綻は起きておらず、事業部門は「今年も何とかなるのだろう」と思っている。徴税部門と財政課の努力があってこそ財政破綻は起きていないわけであるが、こうした努力を知らない事業部門からすれば、財政課は「オオカミ少年」として見られている。赤字になることはなく、何年も何十年も黒字が続いている決算は、事業部門にとって事業のスクラップにつながるインセンティブにはならない。
② 情報の非対称性
財政課は財政全体を見渡すことができるが、各事業について、住民への寄与度やステークホルダーとの関係性などの詳細は把握していないため、廃止・縮小の判断が困難となっている。一方で、事業部門は所管事業には明るいが、他部署で成功したノウハウを知らず、車輪の再発明(reinventing the wheel)が起きてしまっている。決算情報は確かに予算編成時の大きな判断材料となるが、それだけでは予算編成に活用できない。
③ リソース不足
毎年夏頃に決算成果の報告や決算統計が完了するが、息をつく余裕もなく、来年度予算編成に向けた準備が始まる。最近では、どの自治体も行財政改革に力を入れており、サマーレビューを実施し、政策の方向性や主要事業の課題などを検討している。決算統計や「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)による財政指標を分析し、自治体全体の経営に視点を置いた予算編成としたいが、分析にはかなりのリソースが必要になることから、普段から残業の多い現在の財政課では分析まで手が回らない。
 
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決算を予算に反映させるために

次に、決算や決算統計の情報を予算編成に活用するための具体的方法を考えてみたい。  一つ目の「危機的意識の欠如」に対しては、枠配分予算制度(以下、枠配分)の導入が一つの改善策になる。枠配分を採用する自治体であっても、枠配分を予算全体ではなく、一部の経費に限っているケースが多い。事業に直接かかる人件費が枠外であったり、投資的経費(減価償却費)の算入が難しいなど、現状では、その効果は限定的だと言わざるを得ないが、少なくとも事業部門が「実質収支」を意識する機会が増えることは危機意識の醸成につながる。  二つ目の「情報の非対称性」に対しては、財政課と事業部門のコミュニケーションを密にすることが求められる。予算編成時期に突入してからでは、双方が目の前の仕事に忙殺され、本音を出しづらくなる。予算編成時期だけでなく、予算執行時も含め、一年を通じて情報交換を活発に行うことが必要である。意見交換できるような関係性を築くことができていれば、財政課と事業部門の両者の強みを生かした予算編成、事業のビルド&スクラップを達成できるのではないだろうか。  最後、三つ目の「リソース不足」については、ICTを活用したシステムによる業務の効率化を進めたい。決算や決算統計の作業にかける時間を短縮し、決算情報の分析や予算編成への活用など、よりクリエイティブな業務に時間を捻出すべきだ。  例えば、決算調整のための決算見込み調査として財務会計システムが保有する執行データに、執行見込や収入見込などの必要最小限の情報を入力するだけで算出できる業務フローの構築や、それに対応したシステムを導入できれば、漏れなく・精度高く・短時間で見込み額を把握することができる。  決算統計作業もシステム導入の恩恵を受けやすい業務だが、自治体によっては独立した決算統計システムが使われており、予算編成システムや財務会計システムから情報を抽出し、エクセルを駆使して性質分類作業等を行っている事例もある。予算編成~予算執行~決算~評価の一気通貫のシステムがあれば、それぞれの作業時間が短縮されるだけはなく、担当者による差異が平準化され、内容に一貫性が生まれ、分析の質の向上にもつながる。正確な分析結果を得るためには既存データの品質維持も欠かせないのだ。  時間とコストをかけて作成している決算・決算統計だが、これらを活用できなければ綺麗な資料として保存されるだけである。決算統計の仕訳の自動化などは業務効率化にそれなりに寄与しているが、それだけではもったいない。次年度予算編成など今後の経営判断に生かすべく、予算編成から、執行、決算、評価までを一体的に捉えた「予算のマネジメントサイクル」を実現すべきだと考える